奇跡〜冬に舞う桜〜

□第5話
1ページ/13ページ





「───……いやぁ、今年も波が荒れてるなぁ」

「ぜってぇ波の荒れ具合じゃねぇこの吐き気は…」

「平助くん大丈夫?」

「まだ大丈夫…、」



12月30日。

私達は定期的に島と陸を行き来する大型の船ではなく、島にいる知り合いのおじさんが運転するモーターで、島を目指していた。

毎年この時期は波が荒く、大型の船で帰っていると船酔いを起こす。

風があたり、景色がよく見えるモーターだと酔いはあまりこないけど、おじさんの運転が荒いからプラマイ0。

現に、平助くんは少し吐き気を催している。

慣れていない人におじさんが運転するモーターに乗せるのは、波が荒い時に大型の船に乗るのと同じ。

私はモーターの縁の支えにぐったりともたれかかっている、平助くんの背中をさする。

ありがとな。と言う平助くんの言葉は、吐き気のせいかどこか弱々しい。



「モーターは大型船より速いから、後ちょっとで島に着くよ」

「これから島に帰る機会が何回もあるんだし、早いとここの荒さに慣れときなよ〜?」

「ほら、茶でも飲んどけ?」

「ありがと…」



智兄が船長室から注いできた温かいお茶を受け取り、冷たい風にあたり続けた体を温める。

平助くんも、お茶を飲んだことで、いくらか気分が和らいだらしい。

青ざめていた顔色が、段々と色を取り戻している。



「に、しても…おじさんの運転は相変わらず荒いね。転覆させたりしないでよ?」

「何言ってんだ遥架ちゃん。わしがそんなミスするわけねぇだろ?」

「頼もしいねぇ。その調子でこれからもよろしく頼むぜ、親父さん」

「任せてくれ。坊主も、次乗るときにゃぁ体鍛えとけよ?」

「おぅ…」



これでも鍛えてる方なんだけどなぁ…。と若干落ち込む平助くんに苦笑を洩らし、私はほどよい熱さになったお茶に口をつけた。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ