奇跡〜冬に舞う桜〜
□第5話
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「───……いやぁ、今年も波が荒れてるなぁ」
「ぜってぇ波の荒れ具合じゃねぇこの吐き気は…」
「平助くん大丈夫?」
「まだ大丈夫…、」
12月30日。
私達は定期的に島と陸を行き来する大型の船ではなく、島にいる知り合いのおじさんが運転するモーターで、島を目指していた。
毎年この時期は波が荒く、大型の船で帰っていると船酔いを起こす。
風があたり、景色がよく見えるモーターだと酔いはあまりこないけど、おじさんの運転が荒いからプラマイ0。
現に、平助くんは少し吐き気を催している。
慣れていない人におじさんが運転するモーターに乗せるのは、波が荒い時に大型の船に乗るのと同じ。
私はモーターの縁の支えにぐったりともたれかかっている、平助くんの背中をさする。
ありがとな。と言う平助くんの言葉は、吐き気のせいかどこか弱々しい。
「モーターは大型船より速いから、後ちょっとで島に着くよ」
「これから島に帰る機会が何回もあるんだし、早いとここの荒さに慣れときなよ〜?」
「ほら、茶でも飲んどけ?」
「ありがと…」
智兄が船長室から注いできた温かいお茶を受け取り、冷たい風にあたり続けた体を温める。
平助くんも、お茶を飲んだことで、いくらか気分が和らいだらしい。
青ざめていた顔色が、段々と色を取り戻している。
「に、しても…おじさんの運転は相変わらず荒いね。転覆させたりしないでよ?」
「何言ってんだ遥架ちゃん。わしがそんなミスするわけねぇだろ?」
「頼もしいねぇ。その調子でこれからもよろしく頼むぜ、親父さん」
「任せてくれ。坊主も、次乗るときにゃぁ体鍛えとけよ?」
「おぅ…」
これでも鍛えてる方なんだけどなぁ…。と若干落ち込む平助くんに苦笑を洩らし、私はほどよい熱さになったお茶に口をつけた。