小 説
□傾国美女-使命-
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その日も、地上に穏やかな光を与えるため、太陽が南空高く登ろうとしていた。
城下では昼食の準備にとりかかろうとする女たちが忙しなく市場を行ったり来たりしている。
いつもと変わるところのない昼前の光景。
しかし、此処に限っては、そうではなかった。
大陸に咲く大輪の如く、中華文化の髄のすべてを集めたその城は、絢爛を極めて唯一無二の体で聳えている。
城下と同じく午餐の準備をする女官達―数十名は下らない―は、やはり城下の女となんら変わらず世間話もとい噂話を好むらしい。
そして、湯をはった金の桶を運ぶ女官に声を掛けたのが例えこの男でなかったとしても、この国の運命は変わらなかったに違いない。
運命はゆっくりと、だが確実に行くべき道を辿っている。
「フン、董卓は今頃起きたのか。」
「これは呂布様。おはようございます。」
女官は両手で桶を持ちながら、腰を屈めて呂布に一礼した。
董卓が目覚めた時、鳳凰が彫られた金の桶に湯をはって女官が持っていく様子はここではごく普通の光景であった。
呂布が女官に声を掛けることは珍しかったが、確かに昼食時に目覚めるとはやや遅すぎる。
なんとなくボヤいた呂布の言葉の後に、女官があたりを気にしながら早口に続いた。