フルーツ(仮)
□迷える神様
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「お父さんもお母さんも大ッキライ!!」
「静(しずか)!!待ちなさい!!」
最近繰り返されるやり取りにいい加減うんざりする。けれど、納得なんて出来なかった。
《家の子じゃない》って聞かされた後、お兄ちゃんが帰ってきて。
お父さんは《帰れ》って言った。静かに怒る、威圧感たっぷりのあの顔を見たら何も言えなかったし動けなかった。
するり、と抜けていったお兄ちゃんの腕。ふらふらと無言で居間を出て行くあの背中。
はっきり覚えてる。
多分お兄ちゃんが靴を履いてる位に、はっとした。
追いかけなきゃ。
追いかけなきゃ。
立ち上がろうとすると、お父さんに止められた。何も言えなかった。
動けなかった。
扉が閉まる。
ガチャンって、やけに大きく響いた気がした。
お母さんは台所に行って、お父さんは書斎に。
お兄ちゃんのいなくなった家は静かで静かで耳が痛い。
何度も聞いたけど、お父さんははぐらかす。
《元の家に帰ったんだ。詳しくは、まだ、言えないけど》
要するに、本当のお父さんとお母さんの所に行ったんだよね。
お父さんにはどんなに詰め寄っても教えてくれなかった。最終的にお母さんになだめられて話は終わった。
考えながら歩いていると、いつもの交差点。
確かにここで別れた。
あれが最後だった。
笑ってた、最後の顔。
《大丈夫大丈夫。さ、そろそろ行かないと遅刻するぞ?》
頭を撫でて、気をつけてなって…。
納得出来るわけが無かった。しかし今現在ある情報じゃお兄ちゃんに辿り着けない。
結局今出来ることは、学校に行くこと。
「うう…」
小さく呻く。
静は重い足取りで学校に向かった。
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「静っ!!オッハヨー」
「紅葉くん…。相変わらず元気だね」
上履きに履き替えていると、紅葉くんもちょうど下駄箱の前に立っていた。
同じクラスじゃないけど以前うさぎリュックを誉めたことがあった。その時うさぎ柄のタオルを持ってて、話が弾んだ。
「紅葉くん、誰か待ってるの?」
上履きに履き替えているのに教室に行こうとしない紅葉くんを見て疑問を投げかけてみる。
「うん。ちょっと、トールと、キョーとユキを待ってるのだー」
「ああ、あの有名な…」
ゆき、と聞いてうちの学校で知らない人はいないのではないだろうか。
頭がいい(らしい)。スポーツも出来る(らしい)
王子様だ、って女子が騒いでた。ファンクラブもある。
まあ、私は遠くから少し見たことがある程度。そんなに興味ないって前に言ったら、このブラコンッって言われた。
そうなのかな?
「じゃあね。紅葉くん」
「うん。静ばいばい」
外から黄色い声。周りの女子がそわそわしだした。きっと王子様が来たんだ。
ファンクラブの子タチに押されたり、足を踏まれたり、引っ張られたりするのは御免だ。
紅葉に挨拶をして教室に向かった。
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