初恋

□久懐
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暗い部屋で煌々と光るはテレビの明かり。



テレビに映し出されるのは、髪の長い美人なお姉さん。
それと合わせて聞こえてくるのは、色っぽい嬌声。




…そして、隣に居るのは高野さん。


誰かこの状況を3行で説明をしてはくれないものか。
と、思っても聞ける人はただ一人しかいない。







「あの、なんでこんなことになってるんですか…」
「は?」



わけが分からないという風な返答。

わけが分からないのは俺だと言うのに。



家に帰るはずだったのに、急に高野さんに連れ込まれて、無理矢理ソファに座らされて何されるかと思いきやAVを見だして…。


意味が分からない。



べ、別に、高野さんに何かされることを願ってたわけとかではないんで!
それは、絶対に有り得ないんで!!!!!!



ふと脳内を過った自分の考えに溜息が出そうになるが、それを呑み込み、この理解できない状況の説明が欲しくて、続けて高野さんに話しかけた。



「や、その……だから、なんで俺は高野さんとこれ、観てるんですか」
「ふっかけてきたのお前だろーが」


ふっかけた?
誰が?
俺が?
まさか。


身に覚えがない単語が俺の脳内に降ってきた。

意識的に人に対して攻戦的な態度なんて取ったことはない。取ったりはしない。


しかも仕事上では上司であるこの人にふっかけることなんて、有もしない。


…挑発されて、それに何度も乗ったりはしたが。



「はぁ? ふっかけたって何を。俺は何も…」
「この間酒飲んだ時に、『俺だってちゃんと抜くときは抜いてますよ!今度してやりますよ!』って言ってたじゃねーか」
「は、」



高野さんから発せられたセリフが頭の中で反響する。

その言葉に全身の体温を奪われたかのように、体が凍りつく。



が、今の俺にはそんな暇はなかった。
すぐさま頭をフル回転して、いつどこでそのような言葉を言ったのか思い返そうとしたが、記憶の引き出しの中にはどこにもなかった。

なんとなくそれのような記憶があったが、前後の記憶しかなく、間がすっぽりとない。
俺が記憶してるその記憶は、高野さんと酒を飲んで、そのまま何もなく寝た、ということだけしかそこには記憶されていない。


その時は朝起きて以前のようなことにもなっておらず、ほっとしていたのだが…



まさか本当にそんなことを言ったのだろうか。
でも、俺がそんなことを酔っていたとはいえ言うはずがない!という変な自信があった。
反抗しようとしたが、万が一にでもあったら…なんていうことが頭の中を渦巻いてて…



思わぬ言葉に未だに返す言葉が見つからず、焦りと動揺で喉がカラカラになっていく。




耳に入ってくるのはテレビから流れてくる嬌声。

肩から伝わる感触は高野さんの手。



ヤバイ、流される。



直感というか雰囲気に呑まれそうになり、それは駄目だと思い、



ここから逃げよう



という考えに至り、頭の中がぐしゃぐしゃになった状態で身体は玄関に向かう態勢になった。


けど、そんなことが高野さんに許されるはずもなく、すぐに身体を抱き寄せられた。



目の前で高野さんの口が開き、そこから零れる言葉をもう聞きたくはなかった。



「自分でするより、俺にされる方がいいわけ?」



ぐしゃぐしゃになった頭で冷静になって物事を考えるということはできないらしく、


何をどうしてこうなったのか。
どこか遠くで プツン、と何かがキレた音だけが脳に残り、



「…………たよ」
「?」
「ええ、ええ!はいはい!わかりましたよやってやろーじゃないですか!」




気がついた時には、引くに引けない状況になっていた。



























「は…ンッ」


快感に堪え切れない自分の声と自分のを擦る音が部屋に響きわたる。


高野さんは、何もしていない。
ただ俺を、見てる。



俺は、その様子が見たくなくて、目を瞑る。
でも、目を瞑っているのに、目を瞑っていないような感覚に陥る。



瞼の裏側に映し出されるのは、自分からは見えないはずの高野さんで。
消えろと訴えかけても、ずっと出てくるあの人が憎い。


でも、それを映しだそうとする自分に一番腹が立つ。


いい加減に気持ちを認めたらどうなんだという風で。



怒りにも似た羞恥でいっぱいいっぱいだというのに、自分のモノは熱くなるばかりで。
羞恥と快楽に脳を支配され、涙が頬を伝う。



手を動かすにつれて、先端から徐々に液が溢れだし、それごと自分を擦るのでヌチヌチと音が立つ。

絶頂が近いのか、動かすのを抑えていた腰が無意識のうちに揺れ浮く。
自分の高まりと合わせて心臓の音も大きくなり、呼吸も大きくなる。

高野さんにまで聞こえているんじゃないのかというくらい、五月蠅く鳴る心音。



「手、貸してやるよ」

「ハ、?…ッぃ、あ…ッ………、ア…ッ!」


先ほどまでずっと黙っていた高野さんの声が聞こえたと思ったら、シャツ越しに胸の尖がりをぎゅうっと潰され、その拍子に吐精してしまった。














急になんとも言えない脱力感に襲われる。
先ほどまで上がっていた呼吸もいつもの調子に戻る。


垂れ流しだったテレビはいつの間にか消えていた。



「もう、いいでしょう。これで」


そう言いながら、近くにあったティッシュに手を伸ばし、吐きだしたものを拭っていく。
が、微かに手が震えているのが自分でもわかる。



高野さんが仕掛けたことにノッてあのようなことをしてしまった、と大人げない自分に苛立つ。


本当は無視してでも帰ればよかったのに、なんであの時帰らなかったのか。
律義に自分が言ったことに責任もってやることなんてなかったはずなのに。
なんでそれがきっぱり断れなかったのか。


高野さんが帰らせてくれなかったから?

流されそうな雰囲気に呑まれたから?



それとも、



…ただ、本気で ―――――――?






「で、何考えながらイッた?」
「……そんなの、…なにもないですよ」



先から頭の中を巡っていることを見破られないように、何もないような素振りで答える。


問われた事に対して、本当のことなんて言えない。




落ちついていたはずの心臓は、いつの間にかまたドクドクと脈打っていた。


自分の気持ちに正直になれ、と言うように。





俺が一人で脳内で色々なこと考えていて黙りこくった所為なのかどうか、高野さんは諦めて、ソファに身体を預けてもたれかかった。


「ま、どうせ言わないのはわかってたけどな」
「じゃあ、なんで」
「どうせ俺でいっぱいのはずだろ、お前の頭は。昔からな」


そう言うと、フ、と笑いかけ、手を伸ばし俺の髪を撫でる。
さらさらと髪の上で手を滑らせるだけで、何もせず言わず。


その時の心音は五月蠅いんだけど、

でも、気持ちはいつもより穏やかで。






ふと、昔抱いていた気持ちが蘇る。




やっぱり、俺は…






20110515

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