初恋
□気分は飴色模様(赤)
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「じゃじゃーん!なんだか変な飴ゲットしたよー」
朝からそう声を発したのはエメラルド編集部で一番童顔の木佐さんだ。
美濃さんがいつもの笑顔でなになにー?と話しかけるだけで、羽鳥さんや高野さんはデスクに向かったままの姿勢から変わりはない。
そんないつもの日常だ。
「ねーねー律っちゃん この飴すっげー綺麗じゃね?」
「そうですね綺麗ですね」
と俺もいつも通りに答えを返す。
単純に返事してるんじゃなくて、その飴が本当に綺麗だと思ったからそう返事したんだ。
木佐さんとのこういうやり取りは嫌いじゃない。
すると木佐さんはビリッと小さな袋から赤色の飴玉を取り出した。
「てことで、エメ編で下っ端もとい新人の律っちゃんに毒味させてあげるね〜 ほいっ」
「えっちょっと木佐さん むぐぅっ?!」
木佐さんに無理やり飴玉を突っ込まれた。
「はにするんでふか!」
「だってさーそれよくわかんない兄チャンが試供品ですーって配ってたやつなんだもん。自分で食べて具合壊すのもな〜」
「だからって俺で試さないでくださいよ!」
数回舌の上でコロコロと飴玉を転がす。
「で、どうよどうよ?身体が熱くなってきちゃった〜とかなっちゃう感じ?」
「いや、普通においしい飴ですよ?イチゴ味の」
「んだよ〜 全然面白くないじゃんかー!」
「何を期待してるんですか」
内心変な物じゃなくてほっとしている。
普通に単なるイチゴ味の飴。ちょっと甘いような気もするけど。
何も特に変わった所もなかったので、木佐さんと美濃さんはつまらなさそうに仕事に戻った。
朝のそのやり取りから数時間後に変化は訪れた。
「んじゃ俺ちょっと会議行ってくる。後任せたぞ」
そう言って席を立ち、会議室に向かおうとした高野さんを何かが引っ張った。
何かじゃない。俺の手だ。
俺は、何をやってるん…だ?
「?どうした、小野寺」
「…………か?」
「?」
なんだかよくわからないけど、頭が身体がいうこをきかない。
え?なにこれどうなってんの?
「小野寺、何かあったんなら話は会議の後で聞…」
「先輩、俺をおいてどこに行っちゃうんですか?」
周りにいた全員の視線が一気に俺に集まる。
俺の様子がなんだかおかしいということに気づいたらしい。
あーなんか、よく…わかんない…や
「え?律っちゃんどうしちゃったの?寝ぼけてんの?先輩って?」
隣にいた木佐さんから質問の嵐。
「俺はまたおいてかれちゃうんですか?」
「おい、小野寺寝ぼけてんな」
ぼろぼろと目から温かい滴がこぼれていく。
視界が崩れていく。
もう何も見えない。
「おっれは…先輩のこと、ほ、本気で すっ だった…の、に…」
嗚咽混じりで言葉がちゃんと紡げない。
先輩においていかれてしまう悔しさや悲しさが込み上げてきてついには、
「お、オイ!」
「先輩の…馬鹿ぁあああああっ」
右脚に変な感触と衝撃を受けて、高野さんをふっ飛ばし、俺はそのままそこに泣き崩れた。