short.

また君に逢えた
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最後に、君に手を振ってから、




最後に、君と約束してから、




もう、どれくらいの時間が過ぎただろうか。




それすらも僕らは曖昧なままに、




今日も、






生まれた時から描き始めた絵本の新しい1ページを消えない様に刻んでいく―――













「・・・イクト、最近どうしてるかな?」




というのも、ついこの前まで何日か置きに来ていた電話やメールが来なくなったから。




イクトは海外で色々な所を点々と廻りながら演奏をする楽団に入っていて、何処かに何カ月も滞在することはないらしく、




いつかしてくれた電話で『忙しいけど、楽しい』と話していた気がする。




そして、あの頃のイクトが探してたイクトのお父さんは少し前に日本に帰って来てて、




お母さんの奏子さんと幸せそうに暮らしてるんだって歌唄が言ってた。






「急に連絡しなくなるとか、何なんだよ。イクトの馬鹿」






届くはずもない声で世界中の何処かに居るイクトに毒づきながら、体操座りをしたまま顔を埋める。




・・・忙しいのは分かるし、




イクトが何の理由もなしに急に連絡を寄越して来なくなるようなヤツじゃないってことも分かってる。




でも、




それでも合間を縫って、真夜中だったりしたけど電話だってしてくれたしメールも送ってくれた。




どんなに忙しくたって連絡して来てくれることが、あたしにとっては凄く嬉しくて、




だから余計心配なんだ。




もう面倒くさくなったとか、あり得ない訳じゃないけどあり得なくあってほしいと願うのはきっとあたしがイクトを信じてるから。






イクトが、好きだから。






「・・・・・・っあー!!考えても頭の中が混乱するだけじゃん!もー、寝る!」






ピロリロピロリン♪






「っ!!」






寝ようと降り切った瞬間携帯のイルミネーションが光り、着信音が鳴り響き、




ベットから跳び起きたあたしは着信相手を確認することもなく電話に出た。






『よ。あむか?』




「えっ?う、ん・・・。イクト?」




『ん』




「しっ、信じらんない。どんだけあたしが心ぱっ・・・あ、」




『何?心配してくれてたんだ』




「ち、違っ!!してない!心配なんて、してないからねっ?!絶対!・・・多分」




『クスッ・・・多分って、やっぱお前おもしれー。じゃー心配してくれてたってコトで』




「っ勝手に思っとけばいーじゃん!もう知らない!おやすみ!!」




『ちょっ、待てって・・・つーかお前相変わらず、』




「何」






「ぶよーじんだな」






「へっ・・・?」




なんで、




どうして、




あたしの見えないところに居るはずなのに、




イクトがここに、




いるの―――?




「久しぶりだな、あむ・・・」




「うそ・・・なんで、っ・・・」




「なんでって・・・あむに逢いたかったから?」




「ばっ!何言って・・・っわ?!」






刹那、君に包まれる。




と同時に耳元で囁いた。






「ほんとだって。あむに、逢いに来た」






甘い甘い、声色で。






「っ・・・そこで喋るな、馬鹿っ」




「そっか、耳弱いんだったな。俺と同じで・・・」




「言うなあっ!」




「にしても・・・」




「?」






イクトは急に体を離すと、あたしをまっすぐ、ただただ見詰め始める。




それからまた、さっきよりも少し腕の力を強くしてあたしを抱きしめた。






「・・・大人っぽくなりやがって。こんな可愛いあむ、唯世に最初に見られたなんて信じらんねー、何してんだ俺」




「なっ!」




「あむ、かわいー。顔真っ赤だぜ?林檎みたい。あ、美味しそうだな。イタダキマース・・・った。何すんだ」




「煩いっ、このエロネコっ!!」




「ちっ・・・」




「舌打ち!?」




「ま、いーや。こーしてるだけでも幸せ」






そう言うや否や、ぎゅーっと力づくで抱きしめられる。






「ちょっ、イクト!苦しっ・・・離せっ馬鹿!!」




「いーじゃん、これくらいー」




「人を窒息死させる気かっ!!」




「大丈夫だろ、さっきより緩めたし」




「・・・・・・ね、イクト」




「ん?」




「・・・あたしも、さ。イクトに、逢えてっ・・・えと、その、嬉しかった、から」




「!!」




「勘違いしないでよっ?!こーするの許すのも、いっ、今限定だからっ!!」




「ふっ・・・分かってる。いつか絶対、振り向かせてやるから」




「っ、好きにすれば」






空に輝く星たちは、僕らを見守るかのように輝き続ける。




例え君と離れてしまっても、月が道を照らし続けて、



またこの場所へ導いてくれると、そう信じてるんだ。










また君に逢えた











(君が来たときの為に、今でもドアの鍵を開けたままなのは絶対に秘密)

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