short.

君と入れ替わることができたなら、
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君と入れ替わることができたなら、




どれだけ、よかっただろう。




どれだけ、君を救うことができただろう。






どれだけ君を闇から守ることができたのだろう―――。






――――――――――――――――――――――――――君と入れ替わることができたなら、






「イクトはいいね、自由で」




「は?」






急にあむの口をついた言葉に驚いた。




や、だって、あむは十分自由だと思っていたから。




でも、あむからすれば自由など無かったらしい。




オレとあむが初めて会った時から、あむの自由になりたいという気持ちは変わってはいなかった。






「だから、自由でいいなぁって言ってんの」




「そうか?自由も自由でやることねぇし、暇だぜ?」




「・・・鎖に繋がれて、檻の中で散歩してるよりも暇な自由がある方がずっとマシってもんだよ」






少し切なそうに俯いて微笑したあむは、悲しいくらい、綺麗だった。






「ふぅん・・・」




「あーあぁ・・・どうせならさ」




「うん?」




「綺麗な鳥とか、どっかの誰かさんみたいに自由気ままな猫みたいな人になりたかったなぁ」




「お前、馬鹿にしてんのか?それとも貶してんのか?」




「うーん、どっちも」






けろっと言い放ったあむに先程の切なそうな顔は嘘だったんじゃないかと思わされるが、




何となく、分かってしまった。




今のこの笑顔は、作り笑いだということ。




ほらやっぱり。




君はまた、そんな顔をする。






「ははっ、なーんてね。嘘、ホントにそう思ってる」




「・・・・・・オレが、あむと入れ替われたらな」




「え?」




「オレがあむと入れ替われたらさ、あむは自由だぜ?」






そしたら、あむの幸せそうな顔を見ることができるだろうから。




あむに幸せが訪れるなら、




オレは、どんなに傷ついたって、苦しくたって構わないんだ。






「そ、んなの・・・っ駄目だよ。イクトだったら、尚更・・・駄目だよ」




「なん・・・」




「イクトが・・・好きだから、だから駄目だよ。イクトのことは、苦しめられない・・・」




「オレもあむが好きだから、あむが傷つくのを黙って見てることなんかできない」






オレがそうあむを見詰め返せば、




あむは静かに涙を零した。




淡く、儚く、そして美しく―――――・・・・・・






「あむ、」






オレはそんなあむを抱きしめ、大丈夫とか言ってみた。




大丈夫。なんて、無責任に言っていいのかは分かんねぇけど。




ただ、怖がらなくてもいいって、守ってやりたかったから。






「・・・ねぇイクト?」




「ん?」




「・・・・・・ううん、やっぱなんでもない」




「何だよ・・・」




「ごめん、ごめん。・・・あたし、頑張るから、じゃあね!お、おやすみ!早く寝なさいよ?!」






そう言って行ってしまったあむはどこか寂しげに震えている気がした。






「それはお前だろ」






あむが置いていってくれた一片の幸せに顔は綻び、




片手を星の輝く空に向かって上げ、1人、夜の空を見上げ呟く。









君と入れ替わることができたなら、









「ぜってーあむを助けてやるから。そしたら・・・」








―オレから、もう1回あむに告るから。覚悟しとけよ?―








そう呟いた声は君に届かない。




けれど、きっと届けと願った。




突き刺すような、夜の風にのせて―――・・・。










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