拍手ありがとうございました!



拍手連載9話目です。
(1〜8話目は2769Aにあります)



















気が付いたら、沢田綱吉にキスをされていた。





あまりに自然に、まるで、いつもそうしているかのような慣れた所作で触れた唇に。



一体何が起こったのか理解出来ずに、固まったままゆっくりと離れていく人影を目で追ったら、直視できないほどの慈愛に満ちた琥珀の瞳が僕を見つめていて。


その瞳に、何も言えず、ただ逃げるように瞳を逸らすことが精いっぱいで。



俯いたまま動けないでいる僕に小さく笑ったあと沢田綱吉は、




「もっと一緒にいたいけどそろそろ時間だから仕事に行くね。またお昼にくるから」




いつものように、



けれどいつもと違う表情(カオ)で、



恥ずかしがることも、顔を赤くすることもなく僕の額へと一つキスを落として。



まるで動くことを忘れてしまったかのようにされるがままの僕を置いて、



静かに部屋を出ていった。












を手折る












(……っ信じ、られませんっ!なんですか、あの、朝の沢田綱吉はっ!!!)





一人取り残された部屋で僕は、自分の意志とは無関係に何度も何度も頭の中で繰り返される数時間前の出来事に頭を振って一人、毒づく。





あんな、余裕ぶった沢田綱吉なんて…




(っ見たこと、…っない)




昨日まで、いや、あの瞬間まで僕は、沢田綱吉にはキスなんて一生かかっても出来ないんじゃないかと、そう高を括っていた。

あまりのヘタレっぷりに、この僕ですら少し哀れに思うようになっていたくらいなのに。


なのに、いつもの草食振りは一体どこへいったのか、途中でまるで別人のように豹変した沢田綱吉に、この僕としたことが困惑して何もできなかったなんて。


それだけでも、腹が立つのに。

あの男が去った後、我に返った僕が、一体何をしているんだと己の目を覚まそうと浴室へ向かった時目に飛び込んできたのは、

鏡に映る、まるでいつもの沢田綱吉のように、顔を赤くした自分の顔で。



(……キスされたくらいで赤くなるなんて、しかも相手は沢田綱吉なのにっ!あり得ません!!)



いつから赤くなっていた?

沢田綱吉に見られた?


そう思えば思うほど羞恥で更に赤く染まる頬。


その上もうあれから数時間は経っているというのに、思い出したくないのに何故か何度もリプレイされるあの瞬間に、自分の意志に反して勝手に熱を持ち始める頬に舌打ちをして。



突然だったから、


浮かれた沢田綱吉にペースを乱されていたから、


いきなり、別人のようになったから、


だから、動揺しているだけだと。


そう何度も自分に言い聞かせて。


全くおさまる気配のない熱を冷ますようにシーツに顔を擦り付けたてため息をついた時、窓の外がにわかに騒がしくなっていることに気が付いた。




「………?」




そっと窓から下を覗き見れば、ドン・ボンゴレ専用の黒塗りの車が止められ、獄寺隼人が慌ただしく屋敷の中へと入って行く。




(……何か、あったのでしょうか?)




声は聞こえなくとも一目で何かあったのだとわかるその様子に無意識に眉を寄せる。

けれど、何があったのかと推測する時間すら与えられず今度は背後からよく知る足音が近づいてきて、そのままノックもなく豪快に扉が開かれた。




「むっ、むくろ!ゴメン!俺ちょっと急用が出来ちゃって!」



扉を開けるなり大声でそう叫んだのは。



「お昼一緒に食べるって言ってたのに、ダメになっちゃったんだ。ゴメン!!!」




相当慌てて走ってきたのか、肩で息をしながら焦ったように両手を合わせて僕に謝る、”いつもの”沢田綱吉で。





「………何か、あったんですか?」

「ちょっと…、ザンザス達が暴れたみたいで。」

「…またですか。懲りない人達ですね」

「まったくだよお…。今日は骸の誕生日だから仕事しないってあんだけ宣言して、リボーンにもどうにかお許しもらってのにさあ……」




朝のあれはやはり別人だったのではないか、そう思いたくなるほどガックリと盛大に肩を落として情けない声を挙げる沢田綱吉に、どこかホッとしている自分に気づかないふりをして。




「僕の誕生日より、そちらを優先させるのは当然でしょう。」


「っう、骸までそんなリボーンみたいなこと言うなってぇ…」





朝の動揺を感じさせないように、態と冷たい態度を取れば、面白いほど落ち込む目の前の男に少し、気分を良くして。





「む、むくろっ!夜は絶対一緒に食べるから、食べないで待っててよ!!?あ、あとランチも、俺はいないけど食べないで待ってて!」





そのまま怒り心頭のアルコバレーノに叩かれながらズルズルと引きずられるように連行されていく彼が視界から消える前に叫んだ言葉に



「クフフ、夜はともかくランチも待ってろって、いくらなんでもそれは無理でしょう」




先ほどまでの動揺はいつの間にか何処かへ消え、いつも通りの沢田綱吉の支離滅裂な言葉に思わず苦笑して。







(……クフフ、今回ばかりはザンザス達に感謝しなくちゃいけませんね)




そんなことを考えながらも。



窓の下、慌てて屋敷から走り去っていく黒塗りの車を見送りながら僕は、その中で変わらずきっとぼやいているだろう彼に小さく笑った。








つづく.





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