「なあ、骸。お前最近活動費の消費が激しいけど何やってんの?」 会計から提出された資料に目を落としながら思わずため息をつく。 守護者達にはそれぞれ年間決まった額を「活動費」として渡し好きに使用出来るようにしているが、骸の使用金額だけがこの1か月桁外れで多いからだ。 「おや?守護者に与えられている活動費の内容は特に報告義務などないはずですが」 けれど呼び出された俺のワガママ姫と来たら、涼しい顔で正論を返すだけ。 そりゃ俺だって知ってるよ?だから今まで誰にもこんな質問したことないし。 けど、仕方ないだろ?俺の超直感がヤバいって告げてんだから! 「だいたい聞くなら僕よりも雲雀恭弥でしょう?世界中飛び回ってわけのわからないものばかり収集してるじゃないですか」 「ま、まあ雲雀さんのは、なんつーの、所謂ミステリーハンターみたいなもんで害はないし。けど」 「けど、なんですか?」 「なんか今回のお前のは、嫌な予感がすんの。最近ヴェルデと接触してるみたいだしさあ。」 そう告げれば、目の前のワガママ姫が急に目を細めて、嬉しそうに微笑んだ。 あ、これはヤバい。これは確実にアウトだ。 だって完全に「何か」企んでる時の顔してるし。 「ねえ、ボンゴレ。君、この間僕がとても楽しみにしていた映画、当日になってキャンセルしましたよね」 「……は?いや、なんで急にそんな話?」 「あれ、どうして突然キャンセルしたんですか?」 突然話を変えられて思わず首を傾げたところに投げつけられた質問。 「それは…、その急な会議が入ってさ。その時も言っただろ?っていうかなんでそれを今…?」 「そうそう急な会議でしたね。そう言えばご存じでした?僕が観たかったその映画、その後突然イタリアでの公開が終わっちゃったんですよ」 「へ、へえ。そうなんだ…。それは、運が悪かったね」 ははは、と誤魔化した俺の笑いは情けない程棒読みで乾いていたが、骸はそれを怖いくらい綺麗な笑みで見つめ続けた後、少しの沈黙を置いて、口を開いた。 「ああ、すいません、ボンゴレ。僕の活動費の使用目的について、答えてませんでしたね」 そして、ゆっくりと顔を近づけ、その両の目いっぱいに俺を映して。 「僕たちはすでに動き出しています」 「………え?」 そっと、囁かれた、物騒なコトバに。 骸の突然増えた活動費と、短冊に書かれた言葉が一瞬にして繋がって、一気に嫌な汗が流れる。 「ちょっ、どーゆー意味だよそれっ!!ていうか、ぼ、僕たちって?」 「クフフ、後はご想像にお任せします。では僕も急な会議がありますので、これで。」 そのままニッコリと微笑みながら霧に紛れて消えていく骸に。 「ちょっ、むくろっ!、ダメだよ!?変なことすんなよっ!!!?」 俺の切なる願いは届くことなく、虚しく俺とこの部屋に留まった。 (アイツ、ヴェルデと組んで宇宙に手ぇ出すつもりなのー!!?) end end |
「短冊、ですか?」 「うん、たまには良いかなあって。書いたらそこに結んでおいて?」 「…なんでまた急に」 「いーじゃん、たまには」 呆れる恋人の冷たい視線に負けじと笑顔で言い返して、拒否を認めないと暗に訴えれば。 しっかりとその意味を感じとった骸は、さっさと抵抗することを諦めため息をつきながら手の中の短冊を忌々しげに見つめた。 ………それから数時間後。 「さて、何書いてあるかなあ」 真夜中、俺は暗闇の中、ちょっとドキドキしながら、俺の可愛いワガママ姫の願いがしたためられた短冊へと、手を伸ばした。 夢は大きく? 骸の夢は『マフィア殲滅』だ。 あの衝撃的な出会いの時初めて聞いて以来、10年経ってもその夢は変わらない。 マフィアのボスの恋人になっても、やっぱりその夢は譲らなかった。 けどちょっと前までは口癖のように言っていたのに、ここ数ヶ月、そのコトバを聞いてない気がする。 その上勝手にマフィアを壊滅することもなくなった。 (もしかして、とうとう諦めた?) そう気づいたのはほんの数日前。 本当は直接本人に確認すればいいんだけど。 っていうかそれが出来たら簡単なんだけど、あの照れ屋で天邪鬼なワガママ姫にそんなことしようものなら。 例え本当に諦めていたとしても、認めないどころか誤魔化すためにまたどこかのマフィアを壊滅しちゃいそうだ。 っていうか絶対、する。 別にどっかのマフィアが潰されようとぶっちゃけ興味はないけど、やっぱそこはホラ、平和主義な俺的には避けなきゃいけないかなあなんて思っちゃったワケで。 仕方なく考えたのが、七夕を利用した短冊なワケだ。 「コレで、俺の奥さんになりたいとか書いてあったら最高なんだけど」 なんて絶対にあり得ない予想に期待を抱きつつ。 自らの炎を灯り代わりに骸の短冊に書かれていた願いをドキドキしながら目で追った俺は。 「……………は?」 そこに書かれていた、俺の予想の斜め上を、いや、軽く遥か上をいっていた内容に、そのままゆうに数分は固まっていた(ハズだ) (そう言えば最近アイツ、やたら観てる映画のDVDがあるな) 明日は、その最新作を観に行く約束だってしちゃってる。 けどまさかこうくるとはホント、アイツの思考回路複雑過ぎて(イヤ逆に単純過ぎて?)もう理解することはきっと一生不可能だと悟る。 けど。 問題はそこじゃない。 短冊に宣言するように書いたからには、真剣なんだろう、という事が最重要課題で。 「これ、どうやって叶えるつもりなのアイツ…」 否、どうやってこの願いを俺は阻止すればいい? なんて、真夜中に、ない頭で考えたところで妙案など閃くはずもなく。 とりあえず、 可愛い俺のワガママ姫の、新たな野望を阻止するために、明日行く約束をしてた映画を延期しようと固く決意した。 end |
「ボス、これあげる」 いつものように晩御飯を持って黒曜センターへと赴き、クローム達の分のお重を渡した時、まるで交換するようにクロームが黄色のバラを一輪俺に渡した。 「え?お、俺に?」 「うん、感謝のしるし」 それだけいうと少し頬を染め、恥ずかしがるように去っていくクロームを見送ったあと 「え?むくろ、これ何?」 意味がわからず骸へと視線を向ければ、俺の餌付け作戦が功をそうしたのか、自らお重を並べマグカップに味噌汁を注いでいた骸が 「知りませんよ。クロームに直接聞けばいいでしょう」 興味なさそうに応えた後、何か思い出したように小首を傾げた。 「そういえば一か月ほど前は僕にカーネーションを一輪プレゼントしてくれましたね」 「………え、カーネーション?」 「ええ。その時もたしか感謝のしるしって言ってましたけど、」 今流行ってるんですか、そーゆーの? そう俺に聞きながら、骸は好物の甘い卵焼きをおもむろに口に入れると、満足そうに頬を緩めた。 いつもだったら、そんな骸の様子を盗み見て、心の中でニヤニヤしてる俺も、今日に限っては、それどころじゃない! 「ね、それもらったのってもしかして5月の第2日曜日!!?」 「え?まあそうだったような気がします。それがなにか?」 なんでそんなこと聞くのですか?なんて言いながらも律儀に記憶を辿って答えた骸のその言葉に。 「……や、別に、ほら1か月くらい前っていったから、」 歓喜の叫びをあげたくなる自分をどうにか押しとどめて、ごまかすために味噌汁を勢いよく飲んで心を静めようとするけど 「あの…、何ニヤけてるんですか?」 「え、俺ニヤけてる?」 「ええ、気持ち悪いくらいニヤけてます」 流石に表情までは抑えられなかったみたいで、骸の奴すっげー俺のこと訝し気な目を見てる。 だけど、だけどさ。 ニヤけちゃったって仕方なくない? だって、 5月の第2日曜日に骸にカーネーション渡して、 6月の第3日曜日に俺に黄色のバラをくれてたってことは、 つまりクロームにとっては骸がお母さんで、俺がお父さんって、ことでしょ? (……骸がママで俺がパパ…、ま、マジか……) なにこれ、超嬉しいんだけどっ!!クロームには俺たちそんな風に見えちゃってるわけ!!? もしかしたらもしかして、俺ってば着実に外堀から埋めていっちゃってる!!? なんて一人喜びに浸っていたら、 「…ボンゴレ。気持ち悪いから帰って下さい」 一人で百面相してる俺に、俺の未来のお嫁さんがとんでもなく辛辣なコトバを投げた。 (ひどいよ!未来の俺の奥さん!!) end |
「おや、綱吉君、今日は早かったですね」 学校が終わって一目散に骸に会いに行けば、相変わらずソファに優雅に座った骸が、ポリポリとお菓子を食べながら、綺麗なオッドアイを雑誌から俺に向け、にっこりと微笑んだ。 「まーた骸同じの食べてんの?」 だけどその綺麗なオッドアイよりも俺は、骸が食べているものに目がいって。 思わず呆れたように声をかければ骸は首を傾げる。 「違いますよ。今日はポッ○ー。昨日はア○ロ、一昨日はキッ○カッ○、その前はダー○です」 よくもまあ何を食べたか覚えてるなあと思わず苦笑。 でも俺が「また同じの」って言ったの、そこじゃないんだけどなあ。 「全部その前に"ミント味の"がつくけどね」 「いいじゃないですかミント味。僕大好きなんですけど」 「えー、俺苦手」 「別に君は食べなければいいだけでしょう?」 苦手って言われたのが面白くなかったのか、俺の言葉にぷうと頬を膨らませて不機嫌な顔をする、俺にしか見せないその姿に笑って。 「食べないよ、食べないけどさあ」 その両頬を俺の両手で包んで上を向かせて、ちゅっと音をたててキスをして。 すぐに顔を離せば、物足りなさそうに自ら唇を合わせてくる骸に誘われるまま、もっと深いキスをすれば、いつのまにか俺の口いっぱいに広がるミント味に。 (食べないけど、結局ミント味、毎日味わってるんだよなあ) 夏の間中、これに耐えなくちゃいけないのかなあなんて、まだ今年の夏は始まったばかりでこんな悩みを抱えるはめになるなんて思ってもみなかったけど。 「……ん…、ふ」 ミント味よりも、骸の甘い声を毎日聞きたいとか、抱きしめてキスをして甘い時間を過ごしたいって欲求の方が、思春期真っ只中の俺には当然比較にならないほど大きいから。 早く秋になれ!なんて思いながらも俺は、毎日ミント味のチョコを頬張る骸と今日も、飽きずにミント味がなくなるまでずっと、 なくなったってずっと、 深い深いキスに夢中になるんだ。 俺のコイビトは今、期間限定ミント味! end |
6と9 ただの数字、なのに。 そんなただの数字に俺は、ある日魔法にかかった。 その2つの数字の羅列を見る度に嬉しくてたまらなくなっちゃう、そんな魔法。 最初は偶然見かけたその数字になんかじわりと胸の辺りが暖かくなって。 街中で、 学校で、 テレビの中で、 スマホの画面で。 偶然目にする度にどんどん嬉しくなっていって。 今じゃ偶然なんかじゃ満足出来なくてたったその2つの数字に俺の生活はほぼ全て、支配されてると言ってもいいくらい。 例えば俺の愛車のナンバーとか、 貸金庫のナンバーとか、 銀行のパスワードとか。 そうそう、俺の執務室の、俺しか開けられい金庫のパスワードだって実は……。 とにかく、6と9に溢れた毎日に小さな小さな喜びを噛み締めながら過ごしてるわけで。 そして今年も辿り着いた 大事な大事な、 俺が魔法にかかった、その日に。 「むくろ、誕生日おめでとう」 「ありがとうございます、綱吉」 俺のありきたりの言葉にも、嬉しそうに蕩けるように微笑んでくれる、俺をこんな可愛い魔法にかけた張本人に、 「世界の誰よりも愛してるよ」 そう囁いて俺は、 「僕は"世界の誰より"じゃなくて君の中で一番がいいです」 「そんなの、世界で一番愛してて、世界の誰よりもお前のこと愛してるにきまってるでしょ?」 「くふふ、連呼すると嘘くさいですね」 「嘘だと思うなら、確かめてみる?」 鼻先でくすくすと笑う骸にじゃれるように啄むだけのキスを繰り返しながら。 今年も一年、彼に誰よりも幸せが舞い降りるようにと祈って 今年も一年、彼に溢れんばかりの愛を注ぐことを誓って 今年も一年、俺に魔法をかけてと願って。 世界で一番甘いキスを、お前の歳の数だけプレゼントしてあげる。 だから、ねえ、むくろ。 お前が言う通り人は色んな生を何度も巡るのかもしれないけれど、 そのどれよりも今が一番幸せだって思えるようにしてあげるから、 来年も、 再来年も、 その次も。 俺がこの魔法から解けないように、 ずっとずっと、 6と9の2つの数字を見るだけで嬉しくなっちゃうように、 2人でずっと、 一緒にいよう? end |