キリリク
□彼と彼女の恋愛事情 ―side M―
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翌日、僕はいつものように綱吉君の傍で補佐としての仕事をしながら話をするチャンスを窺っていた。
(……どうしよう)
けれど、何度もチャンスがあったにも関わらず朝からずっとそわそわしたまま話すことも出来ず気が付けばもう、夕方。
当の綱吉君といえば、僕の様子がおかしいことに気づいてるのか気づいていないのか、いつも通りで。
(……どうしよう)
日が暮れる。
それはつまりタイムリミットが迫っているということで焦りも増す。
頭を過ぎるのは、もう数え切れないくらい思い返した昨日のビアンキとの会話。
「そもそも骸も手緩いのよ。ツナをその気にさせたいならもっと積極的にいかなきゃ。待ってても無理なら、いっそのことツナ押し倒して奪っちゃえばいいじゃない」
「…っな、何言ってるんですか、そんなことっ、出来るわけないでしょうっ!」
「じゃあせめてもっと大胆に迫るのね。あの鈍感ツナでもその気にるように」
「…そ、そんなこと言われても」
「大丈夫。ツナみたいな男には単純な方法の方が上手くいくの。私にいい考えがあるわ」
そして彼女が自信満々で告げたのはあまりにも単純な計画で。
そんなことで上手くいくのだろうかと不安になりつつも、でも昨日は眠れないくらい緊張して。
「あの…さ。どうしたの?骸」
「…っ!!!」
突然声をかけられて、思わず盛大に体をビクつく。
「俺出し忘れてる書類とかあった?」
そんな挙動不審な僕に首を傾げながら尋ねる綱吉君の内容は、彼らしく全然的外れな内容で、
「いえ、違います。」
気づかれていないことにほんの少し安堵して、ほんのちょっと残念な気分になって。
「んーじゃあなんか俺忘れてることでもある?」
「…ち、違います」
「…えーと、じゃあ?」
困ったと言わんばかりに眉を下げて僕を見つめる彼と、黙り込む僕。
僕の言葉を待つように、何も言わず静かに待つ彼に沈黙が流れて
「あのっ!きょ…今日なんですけど」
居た堪れなくなって追い詰められるように発した言葉に、綱吉君がきょとんとした表情で僕を見た。
「今日?何か約束してたっけ?」
「いえ、そうじゃなくて…、夜、綱吉君の部屋に…、行きたいなあと」
思いまして……。
後に引けなくて、覚悟を決めて彼を誘うものの、最後の言葉は我ながら情けないくらい小さくて。
目を合わせると言葉の裏に隠した下心がバレてしまうんじゃないかと、そんな気がして視線を逸らせば、一呼吸置いた後、綱吉君は小さく吹き出して笑い始めた。
「な、なんで笑うんですか!」
「いや、だって俺の部屋なんて毎日のように来てるのに、なんで今日に限ってそんなこと聞くの?」
目に涙を溜めて聞く彼に、言葉を濁らせる。
「…ただ、クローム達に美味しいワインを貰ったので一緒に飲もうと思っただけです」
「え?骸、もうお酒飲んで大丈夫なの?」
「…は、はい。そろそろ試してみようと思ってたので」
「じゃあ今日の夜は骸のお酒デビューを祝してお前の好きな料理デリバリーしてワイン飲もうか。」
「…は、はい。」
頷きながらも、その先を一人想像して、赤くなる頬。
「…むくろ?」
「あ、じゃあ、僕はこれで……」
不思議そうに、でもどことなく上機嫌で僕を見つめる綱吉君に、超直感で全てバレているんじゃないかと、そんな気がして。
隠すように身を翻して僕は、そそくさと部屋を後にした。
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