「想定外……、でしたね」 すうすうと、小さな寝息を立てて再度夢の中へと旅立っていった彼のふわふわの髪を梳く。 まさか、あの生での僕らのことを、夢という形で思い出すなんて。 「…僕ですら、君に会うまで忘れていたのに。」 重いため息をついて、遠い昔を思い出すように天を仰ぐ。 あの日、君がその命を火をきちんと燃やしきった時。 僕は六道眼の力を使って禁忌を犯した。 僕を抱きしめ、愛してると、繰り返し繰り返し懺悔のように言い続け、もう離れないと言い募る君のその想いに、 ううん、離れたくないという、自分の想いに負けて。 また同じ時にまた生れ落ちるようにと、巡る環を乱した。 その犯した罪によって六道の力は消え、その時の記憶も一時的に失った。 けれど僕はまた、思い出すことが出来たんです。 「君が、僕を見つけてくれたから」 全部、全部思い出すことが出来たんです。 「魂が同じだから、君にも残っているのかもしれませんね。『超直感』が…」 そっと、泣きすぎて赤くなった目元に唇を寄せれば、ほんの少し身じろいで、僕を抱きしめる腕の力が無意識に強まる。 たったそれだけでも嬉しくて愛しさが増して、 そして不安が募る。 綱吉が、夢を見たと言って語り始めた内容を聞いた時、 思い出してくれたことに、歓喜で身体中が震えた。 あの時、僕の身体はまだ牢獄の中で。 翌日には刑の執行が決まっていた。 だから。 自分で選んだ。 死ぬ場所を。 他の誰でもない、君の手によって、君の腕の中でその命を終わらせたいと。 (……けれどそれは、彼にとっては辛い記憶でしかない) 自分勝手な想いで、綱吉には辛い思いをさせた。 目の前で、自分の出した攻撃で命を落とした僕を、どんな気持ちで君は見送ったのか。 どんな気持ちで僕の言葉を守るために何十年も頑張ったのか。 鎖で繋ぐつもりなんてなかったのに、結果として彼を何十年もの間、僕という鎖に繋いでしまった。 (………こんなに、泣くほどの想いを僕は彼に背負わせてしまったんだ) 「…忘れていいのです」 だからもう君は、全部忘れてしまっていいのです。 この生でまで、それを背負う必要なんか、ない。 全て夢だったのだと、このままそう思って、全部忘れてしまえばいい。 君が覚えていなくても、僕が覚えている。 それに君は過去の記憶を覚えていなくても、 僕にくれたんだ。 君がずっと伝えたいと、そう願っていた言葉を。 君が命を使い切って僕に会った時と同じように、 僕を、見つけ出してくれた時にも。 そしてその言葉をあの日からずっと、僕に与え続けてくれている。 (……それだけで、十分なんです) もしこの先に待つ、幾度となく巡り巡る環の中で、二度と君に会えないかもしれなくても。 二度と君が僕を選んでくれなかったとしても、それでも。 もう十分、僕は今幸せです。 「ねえ、綱吉。僕は怖いです。」 こんなに幸せでいいのかと。 突然この幸せは奪われてしまうんじゃないかと。 幸せならば幸せなほど、 不安ももっと大きくなる。 だからお願い。 これからもずっと、飽きるほどに愛を囁いて。 僕の不安を、君の言葉でかき消して。 せめてこの生では 君が望んだように、 世界中に溢れてる、ありふれた恋人達のように、 片時も離れず傍にいて 絶えることなく愛を交わして 飽きるほどに触れられる そんな二人で、 終わらせて。 . |