キリリク

□彼と彼女の恋愛事情 ―side M―
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「間違いないわ。恋煩いね」

「………は?」


ビアンキに誘われて街外れのカフェで遅い昼食を食べていた時、唐突に彼女が僕に向かってそう言い放った。







彼女の恋愛事情 ―side M―






「いいことだわ。女は愛に生きるべきだもの」

「……あの、なに言って…」



そのまま一人納得したように頷いていたと思ったら、



「まあでも相手がツナじゃきっと苦労が絶えないわね。鈍感を絵に描いたような人間だし。ご愁傷様」

「な、なんなんですか。わけのわからないこと言ったあげくに綱吉君のこと悪く言わないで下さい」



突然綱吉君を悪く言い出す彼女にムッとしてわざと派手な音を立てて手にしていたカップをテーブルへと置く。



「でも何か悩んでるのは確かでしょう?」

「……別に、悩んでることなんて」

「何言ってるの。私は恋に悩んでますって顔に大きな字で書いてあるわよ?」

「失礼ですね、僕そんな顔してなんかっ」

「してるわよ。なんなら鏡見せてあげましょうか?」



あくまで認めようとしない僕にビアンキは呆れたようにそう言うと、本当に手鏡を出して僕の目の前へと出した。


「…冷血な霧の守護者なんて言われている貴女が、そんな『色恋事で悩んでます』なんてわかりやすい表情して外をふらふらしてるのはどうかと思うけど?」

「…………」



差し出された鏡の中には、ビアンキが言うとおり情けない顔をした僕が映っていて、グッと押し黙る。


「恋の悩みなら私に任せなさい?」



何も反論出来ずに彼女を見れば、促すように優しく微笑んで僕の言葉を待つその姿に



(……こうなるとビアンキは止まらないな)



小さく溜息を零し、逃げられないだろうと早々に降参をすることにした。



「……あの、」



………とは言え。



「……その」



内容が内容だけにクロームにだって言ったことがない胸の内を曝け出すのは恥ずかしくて抵抗がある。

何度も言いかけて、止めて、言いかけてを繰り返し、



「………っ、僕って女として魅力…ないでしょうか」



皺になるくらい強くスカートを握り締めて、どうにか頑張って言葉にしたものの、自然と小さくなる声に更に恥ずかしさが増す。

ちらりとビアンキを見れば、僕の言葉に一瞬驚いたような表情をして、その後呆れたように溜息をついた。



「まさか常時色気だだ漏れ状態の貴女からそんな台詞聞くとは思わなかったわ」

「っだ、だだ漏れってなんですかっ!…しかも常時って」

「言葉の通りの意味なんだけど。まあ貴女の質問の答えにもなるわね。心配しなくても魅力たっぷりだから大丈夫よ」

「…でもっ、綱吉君が」

「…ツナが貴方のこと魅力がないなんて言ったの?」

「ちっ違います。ただ綱吉君が、キス以上のこと、してくれなくて……。付き合い始めてもう数ヶ月経つのに…。それって、僕に魅力がないからですよね……」



誘導尋問のように上手く促されて、気づけば、赤裸々に綱吉君とのことを話していて。

そのあまりの内容の情けなさに、恥ずかしすぎて顔が熱くなる。

けれどビアンキは僕の話をバカにするでもなく、頷きながらずっと親身に聞いてくれた後、苦笑した。



「なるほどね。全くレディにこんな心配させるなんてほんっと何年経っても甲斐性なしね、あの男は」

「…綱吉君は甲斐性なしなんかじゃありません」

「はあ。その上貴女は重度の色ボケでまともな判断も下せないと」

「…っビアンキ!」



あまりの言われように思わず声を荒げれば、ビアンキは不敵な笑みを見せてゆっくりと立ち上がり僕の肩を掴んだ。



「…ビ…ビアンキ?」

「仕方ないわね。ここは私に任せて」

「………え?」

「私が貴方たちの為に一肌脱いであげる。」

「…あ、あの別に僕はそんなつもりじゃ…」

「いいから!任せなさいって!」

「…あ、は…はい」



新しい玩具を手にいれた子供のように瞳を輝かせて嬉しそうに僕の肩をガシガシと揺さぶるビアンキに、僕は頷くしかなかった。







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