キリリク

38.5℃のデジャヴ
1ページ/4ページ



「はい、あーん」
「………」
「むくろ、あーんして?」

38.5℃の熱を出し倒れた僕の看病に駆けつけてくれた恋人は何故かご機嫌だ。
本当だったら寝込んでる僕を見てもっと心配してくれるべきではないか?と思うけれど…。


目の前の彼ときたら…。



38.5℃のデジャヴ


にこにこにこにこ、嬉しくてたまらないという表情で小首を傾げて僕に口をあけることを強いる。

「…綱吉君、あの…」
「なあに?」
「あの、僕、自分で食べれますから…」
「だあめ。病人の看病っていったら、やっぱりこれでしょ?」
「…そ、そうでしょうか…?」
「だって俺が小さい頃父さんが風邪ひくとさ、いつもこーやって母さんに食べさせてもらってたよ?」
「…そう、ですか」
「だから俺、骸が体調崩して寝込んだ時にこうやって食べさせてあげるのが夢だったんだよね」
「…は、はあ…」

(それは君の両親がバカップルだっただけでしょう!そもそもあの男が風邪で寝込むとか信じられません)

心の中で毒づき彼に何度目かになる乾いた笑いを返せば、にこにこと満面の笑みで一口分のアイスを乗せたスプーンを僕の口元に差し出す。

「ほら早く食べないと溶けちゃうよ?」
「ですから、自分で食べれます…」
「だーっめ!」

何度も繰り返されるやり取りにくらくらする。
これが綱吉君じゃなかったらとっくに地獄に堕としているところだ。


(…はあ、そろそろ、…限界です)


熱のせいで思考は定まらないし体の節々が痛みこうして座っているのすら苦痛。
チラリと綱吉君の手の中のアイスを見れば彼の言う通り少しづつ溶け始めている。


(…僕だけじゃなくどうやらアイスも限界のようですね)


もうとにかく綱吉君の言う通りにして彼に満足してもらって横になろうと、ボーっとする頭で結論を出し促されるまま口を開こうとした時


「ほんっと素直じゃないなあ…」


しびれを切らした綱吉君が突然アイスを口に含み(限界だったのは僕とアイスだけじゃなかったようだ)そのまま口づけてきた。


「っんんん!?」

口に広がる甘くて冷たい感触と一緒に、ぬるりと彼の熱い舌が入り込んでくる。
突然のことに現状が把握できず固まる僕をいいことに、咥内を好き勝手に暴れ彼が満足するまでたっぷりと味わい尽くされる。

「っは…ぁ」

「流石3時間並んで手に入れたアイス、やっぱり美味しいね」

満足気ににこにこ笑う彼を呆然と見つめれば、もう一度一口分のアイスを乗せたスプーンを目の前に差し出してきた。

「はい、むくろ、あーんして?」
「…っい、イヤですっ!」
「あ、もしかして口移しの方がよかった?」
「っどっちも嫌です!」
「骸の意地っぱり。そーゆーとこも可愛くて好きだけどさ、熱出して寝込んでる時くらい素直になったらいいのに…。」
「どっちが意地っ張りなんですかっ!」
「まあいいや。じゃあ俺が5つ数えるうちに食べないと口移しってことで」
「は!?」


「5」

「ちょっと何勝手に決めてるんですか!?」

「4」

「つ…綱吉君!」

「3」

「待って下さ…」

「2」

「ちょっと!」

「1」

「〜っ!!」

「0」




.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ