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□RE:INCARNATION
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「っむくろ!!!!」



目を閉じればいつだって思いだすのは、



悲痛な俺の叫び声と



最初で最後、



たった一回だけ見せてくれた、



慈愛に満ちた、



彼の微笑み。











RE:INCARNATION













俺と六道骸は、



愛し合っていた。



愛し合っていたと、思う。



骸に愛を囁いたことも確かめたこともなく、

ましてや普通の恋人同士のように笑いあったり語り合ったりしたことすら、たったの一度もないけれど。



いつだってあいつは俺を標的だと一蹴し、


気まぐれに俺の、ボンゴレの前に現れては、策に嵌めようとして。


その度に俺たちは闘うようになった。


けど、ある時ふと気付いたんだ。


骸がこうやって何か仕掛けてくる時はいつだって俺が精神的に煮詰まってる時で。

問答無用で襲いかかってくる骸の攻撃を避け、応じるようにただ無心で身体を動かして。

興味がなくなったように骸が去っていく時にはいつだって、俺の中のもやもやが無くなってるってこと。

骸の意図が、骸の想いが、本当は言動とは真逆の位置にあるってことに。


そしていつしか俺も、こんな関わり方でも、骸と過ごせる時間が、誰にも邪魔されることのない二人だけの時間があることが喜びになっていて。



気が付けば俺は、骸に仲間以上の感情を持つようになっていた。



それは間違いなく「愛」で。

そして骸も間違いなく同じ感情を持って

同じ理由で同じようにその時間を大切にしていたと思っていた。

だから、当たり前に思っていた。

ずっとこんな関係が、それこそ永遠に続くのだと、信じて疑わなかった。







…………なのに。







「…骸っ!!!」


力なくその場に崩れ落ちた骸に、悲鳴に似た声を上げながら俺は、一目散に彼の元へと駆け寄る。



いつものように二人、今となってはじゃれ合うように闘っていた俺たち。

こうして数時間、誰に邪魔されることなく発散し続けて、互いの存在を確かめて、満足して終わるはずだった。


なのに、もうそろそろ、そう思った矢先、簡単に避けれるはずの俺の攻撃を避けることも防御することもなく、ただ受け止めた骸。




「…つくづく…っ、お人好しですね沢田綱吉。何故君が泣くのですか」




話すのだってやっとのはずなのに、涼し気に笑みを浮かべて、ぼろぼろと俺の両の目から零れ落ちる大粒の涙を掬おうと手を伸ばす骸の、その指は力なく震えていて。

既にその瞳は焦点を合わすことすら難しいのか、伸ばされた指が俺の涙に触れることも、出来ない。




「っなんでっ!なんでお前避けなかったんだよっ!!?」

「…クフ、変なことを言いますね。当てたのは君でしょうに」

「っお、俺、はっ」



全身に俺の炎による火傷を負い、腹にあいた傷を必死で押さえるけど、俺の手を染める赤は止まるどころか勢いを増し。



「馬鹿やろうっ、あれくらい、お前なら簡単に避けれただろっ!!?」



恥も外聞もなく子供のように泣きじゃくりながら責める俺に、瀕死の状態の癖に可笑しそうに笑う骸。




「……これ…で、いいんです」

「良くない!全然良くないよ!なんでお前っ」

「…ボンゴレ。僕と君は相容れない。どこまでいっても、今、“この生”では」

「…な、何言っ…この生って、俺たちには今しかないだろっ!」

「沢田綱吉、君は、生きなさい」

「……むくろ?」

「君は…僕の標的。他の人間などに命を奪われることなど、許しませんよ」

「……でもっ俺…はお前なしじゃ」



力なく床に落ちた手を取り額に擦り付けまるで願いを乞うように、骸の魂を引き留めるように己の手に力を籠めれば、




「…もし」



それに応えるようにきゅっと、一瞬だけ骸が俺を手を握りかえして。




「もし…、君がちゃんと生き抜いて、子孫を残し皺皺のおじいちゃんになってその命の使い切ったなら」



そしてもう、何も見えていないのであろう蒼と紅の瞳をゆらゆらと、俺の方へと向け、ふらりと微笑んだ。




「その時は、この僕が直々に迎えてあげますよ、あの世でね」

「……っ」




それは。



初めて。



初めて俺に向けてくれた微笑みだった。



憎しみや、



謀や、



損得も、



何もない。




「だから、生きなさい。この先何十年も。誰に邪魔されることなく、ちゃんと」



ただ、愛情だけの籠った笑みで。


強く、


強く。


まるで命令のように告げた後骸は




「…クフフ。まさかこの生を終えるのが、君の腕の中だなんて…ね。」




まあそれもまた、一興です……ね、




最後にそう呟くと、やっぱり初めてみる、嬉しそうな笑みを浮かべて、



その紅と蒼の瞳と共に、



"六道骸"としての生を




閉じた。






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