キリリク

□This is Love
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最近ずっと、気になってることがある。

それは、俺達のまわりに降り続ける目には見えない"何か"。


例えばそれは、骸とご飯を食べてる時だったり。


例えばそれは、骸と電話で話してる時だったり。


例えばそれは、骸と外を歩いてる時だったり。


時々しか感じなかったそれは、少しづつ増えていって、そのうち骸と一緒に居る時はいつも感じるようになって。








This is Love







「…ん、何…してるんですか?」



猫がどこか一点を見つめるようにずっと空中を見続ける俺にいつの間にか目を覚ましたらしい骸が寝ぼけた声で尋ねる。



「んー、なんかさ。ずっと降ってるよなあ〜って思って」

「……は?」



何してるのかと聞かれたから素直に答えただけなのに、俺の答えが気に入らなかったのか、もしくは寝起きで頭がまわってないのか、骸は訝しげに眉を寄せて、それでもむくりと顔を上げると上を仰ぎ見て、その後首を傾げた。


骸にも見えないのかな。

幻術使いで霧の守護者で、六道眼なんてなんかもう人智を超えたレアな眼を持ってるんだから、俺よりいっぱい変なモノとか見えそうなのに。




「僕には何にも見えませんけど?」

「うんそうだね、俺にも何にも見えない。」

「…でも君何か降ってるって」



骸が確認するように呟いた言葉にあーなんだやっぱり骸でも見えないものってあるんだなんて頭の片隅で考えながら当たり前のように返事をすれば、今度は非難めいた目で俺を見た。



「見えないけど感じるんだ。何か降ってるよ。俺達の上に、いつも」



毎日、今となっては当たり前のように、俺達に降り続ける目に見えない何か。

それは決して見ることも手で触れることも出来ないけど、でも確かにそこに存在していて。

温かくて、柔らかくて、何故か優しい気分にさせる不思議な何かが、俺達を包むように護るように祝福するように舞い降りてくる。


ひらひら

ゆらゆら

はらはら、と。


今この瞬間だって、ほら、骸の肩に舞い落ちてる。

ずっと空中を見つめたままの俺に、骸は一度部屋を見渡した後呆れたように一つ溜息をついてポスンと頭を枕に預け、



「じゃあ、何が降ってるかわかるんですか?」



興味なさそうに欠伸交じりに尋ねる。

さして答えに興味も期待もしていないのに、律儀に相手をしてくれる骸に小さく笑って、視線を骸に移せば、何度も小さく欠伸を繰り返す骸の蒼と赤の瞳が、窓から零れる光を反射してきらきらと輝いていて。

常に凛として隙など1ミリも見せず麗しく気高い霧の守護者。

普段ありったけの賞賛の言葉を欲しいままにしている骸が、俺にはこうしてありのままの姿を見せてくれることに、じわり、身体の奥から湧いてくるもの、それは。



「そうだな。例えて言うなら」



途切れることなく俺達に降り注ぐものときっと一緒で。



「…例えて言うなら?」

「"愛"、かな?」

「…………え?」

「後は"幸せ"とか?」

「……あの」

「ああ、"希望"とかかも?」

「…っぷ、キミ、寝てる間にどっかで頭でも打ったんじゃないですか?」



ひらひらと骸の髪に、鼻先に舞い降りる目に見えない何かを感じながら答えれば、人が真面目に考えて答えてやったっていうのに、俺の答えに一瞬呆けたように動きを止めた骸は、直後に勢いよく吹き出して枕に顔を押し付けて笑い始めた。



「…うわ、お前ちょっと失礼だろそのリアクション」



確かに言ってる自分が恥ずかしくなっちゃうような言葉ばっかり並べたけどさ、でも。



「いっとくけど、間違ってないと思うよ」

「…そうですか、まあ、僕には見ることも感じることも出来ないので否定も肯定も出来ませんが。」



くすくすと、目尻に涙をたたえたまままだ笑い続けている骸を見ながら俺は、「でも間違ってないし」って呟いて頭上を見る。


だってさ、俺の言った言葉はどれも不確かで触れることができなくて曖昧なものばかりだけど、ちゃんとした根拠があっての答えなんだし。



「クフフ。ボンゴレの超直感っていうのは、そんなものまで感じるんですかね」

「…そうやってすぐバカにする」

「いいえ、うらやましいなと思ったんですよ。愛を感じることが出来るなんてね」



視線を隣に戻せば、当たり前のように俺の隣に身体を横たえていて当たり前のように俺に微笑んでくれる骸の、その姿に。


それだけで、ほら、また身体の奥が温かくなって、愛しい気持が溢れ出して、舞い降りる目に見えない何かの勢いがまた増していく。


だから、決して目に見えなくて触れることが出来なくて、不確かで曖昧で感じることしかできないけれど。

この見えない何かに名前をつけるなら、やっぱりそれは間違いなく。


"愛"で

"幸せ"で

"希望"なんだ。




そう思ったら、止め処なく溢れてくる沢山の愛をもっと骸と分け合いたくなって。

自然と手が伸びて、まだ眠いのか何度も小さく欠伸を繰り返す恋人を引き寄せて。



「綱吉?」

「ね、感じない?」

「何をですか」

「ほら、ここに、ここ、こっちにも。骸の身体のあちこちに舞い落ちてるでしょ」



ひらりゆらり、骸に落ちる何かを辿って髪に、鼻先に、首筋に、細い腕に、そっと指を這わせれば。



「ちょっ…、くすぐったいです」

「感じない?」

「君の指しか感じません」



逃げるように身体を捩り、俺の腕から器用にするりと抜け出てしまう。



「うん、やらしい答えだね、むしろ嬉しいかも」

「っ、馬鹿なことばっかり朝から言ってないで下さい」



自分でもわかるくらいだらしなく頬を緩める俺とは対照的に今の刺激ですっかり目が覚めてしまったらしい骸は、じろりと睨んだ後そのまま俺に背を向けベッドを降りようとするから。

慌てて腕を掴んで引き寄せて、もう一度、今度は抜け出せないようにしっかりと腕の中に閉じ込める。


「放して下さい」

「ダメ、骸が感じてくれるようになるまで放さない」

「何をですか」

「だから、愛」

「まだそんな戯言を…」

「戯言じゃないって、本当に降ってるんだって」

「…もう、大方何か夢でも見たんでしょう?」



馬鹿にしたような声色で、でも今度は抜け出すことなく大人しく俺に寄りかかって機嫌良く笑う骸につられて俺も笑って。

目を瞑れば、腕の中に感じるぬくもりと、降り注ぐぬくもり。

それはやっぱりどちらも同じで。

嬉しくて目の前のおでこにキスをすれば、背中にまわされた腕がきゅっと強まるその感触に、じわり、また奥底から溢れるモノに煽られてもっとお前のことが好きになる。


だからさ骸、もっと俺の隣にいて、もっとこうしてくっついて、もっとその笑顔を見せてよ。


お前が笑って、


俺も笑って、


二人で笑いあって、


もっともっと、


それこそ、世界を覆い尽くすほどの勢いで、もっといっぱい"愛"を降らせて、身体の中までいっぱいにしよう?


嬉しくて、嬉しくて、知らないうちに溢れ出しちゃうまで。





「…綱吉、そろろそ解放してくれませんか」

「あのさあ、俺思うんだけど」

「……なんですか」

「やっぱりこれって"愛"だよね」

「…君、アルコバレーノに感化されすぎですよ。ちょっと気持ち悪いです」

「気持ち悪いって…。俺お前の恋人なんだけど?」




そしてまた二人笑えば、降り注ぐ"愛"がいっそう増えるから。




だからね、やっぱり。



お前が信じなくたって間違いなく







This is Love







……でしょ?








end

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