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□一つの事実
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※血、暴力表現あり
辺りに立ち込める鉄臭いものにテルミは盛大に顔をしかめた。別にその臭いが嫌いだったからではない。
「つまんねーなぁ、おい。威勢が良かった割りには弱すぎんだろ」
大量に倒れた人間の中に、未だに息をして、生命活動をしている者はいない。
くるくるとナイフを回してテルミが嫌悪や嘲笑。その他もろもろの悪意のある感情をそれらに向けた。そんな彼はこの場には相応しくないほど綺麗な姿のままだった。
覚悟しろ、と大人数で突っ込んできた奴らが何者であったかはもはや確認する術がない。沢山のモノから恨まれている自覚はある。だからその中のどれかだろう。どうでもいいことだが。
「あー…逆に胸くそ悪いな。暇潰しにすらなんねぇとか…ねぇわ」
苛立ちを隠そうともせずに動かない頭をガツンと蹴りあげる。抵抗もないそれはボールのように跳ねて落ちる。非常につまらない。
『だから私がやるって言ったじゃないですか』
つまらない世界に一つだけ色が灯る。今まで息を潜めるように寝ていた体の中のもう一人、ハザマが言わんこっちゃないとでも言うように話しかけてきた。
それにテルミは拗ねたように口を歪ませて、もう一度違うモノを蹴り飛ばす。
「暇だったんだよ」
『こんな雑魚どもがテルミさんの相手になるはずがないんですよ』
もし今ハザマに顔があったなら、侮蔑をこめた表情でそれらを見下しているであろう声音がテルミの頭に響く。
「ククっ…ひでぇなあハザマちゃん」
『事実でしょう』
「ヒャハハ!違いねぇがな」
なぜ、自分でなくハザマが拗ねたように機嫌が悪いのか。それを知っているテルミの機嫌が回復してくる。ハザマはテルミとって本当に退屈をしない玩具だ。
ハザマはテルミの事を邪魔する実力も、価値も無いモノが彼に時間を取らせたことが気に入らない。
そしてそんな忠実な玩具をテルミは他人よりも少しだけ、たとえペットを愛でる感覚であろうと優遇している事実があった。それを自覚してまた愉快な気持ちになる。
『早く帰りましょうテルミさん』
「まぁ、これ以上ここに用はねぇしな。帰ったら遊べやハザマちゃん」
急かすハザマに断る理由もないので、血生臭い場所に背を向ける。もう既にテルミの興味は己の体にいるもう一人にしか向けられていない。
『遊ぶって…チェスでもしますか?』
「えー。ハザマちゃん弱いじゃん」
『テルミさんが強すぎるんですよ!』
ケラケラと笑うテルミからは先程までの不機嫌さの欠片もない。
テルミがハザマへの感情に名前をつけることはない。意味も無いし、必要も無いからだ。
ただ彼は自分の感情を満たす。その事実だけでいい。
『私がテルミさんに勝てること…あるはずが…あ、ゆで卵のゆで加減?』
「なんだそりゃ」
訳のわからない事を言い出したハザマにテルミはもう一度だけ嘲った。
end
自分の理想のテルハザを書こうとして撃沈