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□私、貴方のこと
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「ラグナちゃん、デートしましょう」


いつものようにいきなり現れた彼女の発言は、やはり自分の意見など関係ない決定事項であった。


「…はぁ」

「おや、ため息は幸せが逃げますよ?」

「誰のせ……もういい」

「ふふ」


楽しそうに笑った彼女―アオは、ラグナが文句を言うのを諦めたのを認めると、その腕に自分のを絡めた。


「じゃあ、行きましょう」

「…はいはい」


おそらくわざとであろう腕の柔らかい感触。それから意識をそらすように、そして今日のこれからを憂いてラグナは本日何度目かのため息を漏らした。

二人して歩く道。おそらく彼女は、いつもの店の通りへと行こうとしているのだろう。密着しながら歩く二人は他人から見ればそういう関係に見えるのだろうか。


「それでですね、その後が大変だったんですよ!」

「お前、無茶しすぎるなよな…」


手振り身振り、表情豊かに話すアオをそっと盗み見る。キレイともかわいいともとれるアオはその上プロポーションまで完璧だ。先程からすれ違う男、すれ違う男が彼女を見て足を止める。

知り合ったばかりの頃。アオは普通のつまらない男どもは見ていて滑稽で面白いと言った。その発言をしたアオの表情の、少しだけ歪められた口元は彼女の兄達を思い出させた。


「?なんですかラグナちゃん」


見つめ続けていれば、目が合う。狙っているのか狙っていないのかは知らないが、上目遣いにこちらを見つめる彼女にたくさんの男が騙されるのを頷かざるを得ない。


「なんでもねぇよ。ていうかお前ケガとかしてねぇだろうな」


誤魔化すように頭を撫でながら、彼女の仕事ぶりが心配になる。


「お前強いけど、一応女だし、見た目いいんだから。気を付けろよ」

「一応って…酷いですねぇラグナちゃん。私こんなに魅力的なのに」

「自分で言うか…」


ぷう、と効果音が聞こえてきそうな程、頬を膨らましたアオの頬が少しだけ染まっていたが、残念なことにラグナがそれに気づくことはなかった。

しばらく歩いて、沢山の店が並ぶ商店街へとたどり着き、一気にアオのテンションが上がる。


「見てくださいよラグナちゃん!これ良いですよ!」

「おー、あんま引っ張んなって」


先程までの話から、アオがあまり遊べていなかったんだと気づいたラグナは彼女に引っ張られながらもしたいようにさせていた。はしゃぐ彼女に裏表なんて感じられなくて、無邪気に笑っていれば文句なしに可愛らしいのに、とラグナは思う。


「これとか兄さまに似合いそうだなぁ…」

「……だな」


同意しながらもそこは自分に選ぶべきではないかと、胸の中でぼやく。デートなんていうから、少しだけ期待もしたのだが、どうやら期待していたような事は無いようだ。


「…お」

「どうしました?」


アオが真剣に見ていたシルバーアクセの中に、珍しい程に細かい装飾の物を見つけた。


「気に入ったものでもありました?」

「あぁ、おっさんこれくれ」

「まいどー」

「え、ラグナちゃんお金大丈「うるせぇ」


冷やかしながら、アオはラグナの買ったそれから目を離さないでいた。彼がつけるには繊細すぎるそれはどう考えても。


「…誰にあげるんですか?」

「あ?なんか言ったか?」

「いーえ?ラグナちゃんは誰にそんな無いお金を使ってまで買ってあげたのかなーと思っただけですよぉ」

「…なに機嫌悪くなってんだ、ほら」

「………はい?」


袋にいれられたばかりのそれを、乱雑に取り出してラグナがアオの首へとかける。主張が激しすぎないそれはアオのスーツによく映えた。


「…わ、たしに?」

「それ以外に誰がいるんだよ」

「え、あ、いや…」


珍しく動揺するアオにラグナはしてやったりと笑う。珍しく優位に立てた気がした。


「ありがとう、ございます」


ぎゅうっとそれを握り締めたアオが俯きながら礼を言ったせいでその優位は一瞬で終わったが。



それから機嫌が良くなったアオと店を回り終わる頃には、既に日は傾いていた。


「今日はありがとうございました」

「息抜きできたか?」

「はい、すっきりです」


既に距離を取ったアオに少しだけ寂しくなる。自分達の関係は恋人ではないが、そうであればいい、なんて。らしくない思考回路はきっと夕暮れのせいだ。


「んじゃ、無理すんなよ」


そんな思考を消すように頭を掻いて背を向ける。そうすればいつものように次に振り返った時、アオはいない。

そう思ったのに。


「私、ラグナくんのこと、結構好きですよ」


いつもと違う声音と、くんづけと、発言に、驚いて振り返れば、まだアオはそこにいて、それにさらに驚く。


「な…」

「これ、ありがとうございました」


そう言って、キレイに笑ってからお辞儀をしたアオは瞬きの間に消えていた。

恋人関係であればいいなんて。夕暮れのせいだけではないらしい思考回路に一人残されたラグナはもう一度頭を掻く。

後日、偶然町で出会った彼女が、贈ったアクセサリーをしていてその気持ちに覚悟を決めるのは、遠くない未来だった。




end


リクエストありがとうございました!!ゆう様のみお持ち帰り可能です。

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