BB

□所有物
1ページ/1ページ



テルミにとってこの依り代の存在はなんなのか。


「テメェは…あいつを道具としてしか見てねぇのかよ…!」


随分と怒りに歪んだ声だったように思う。復讐のために自分を追うなかで、男―ラグナは気づいてしまった。自分とは違うもう一人の男の人格に。

確か自分が彼から離れていた時のことだったような気がする。ラグナは自分が復讐しようとしている男はただの精神体であって、自分が傷付けた相手はその依り代であることを、そしてその依り代には感情があると言うことを知った。知ってしまった。


「テルミイイイ!!」

「ハザマちゃん」

『なんでしょ……は?」

「…っ!?」


そして気づいた後、優しい優しいラグナくんはハザマを攻撃しなかったらしい。その話が実に興味深かったので、今まさにラグナの攻撃が当たる、という所でテルミは身体の主導権を手放した。つまりハザマを表に出してみたのだ。

がらりと変わった雰囲気にラグナが目を見開く。振り上げられていた腕は慌てて方向を変え、空気を震わすだけに終わった。


「…ビ、ビックリした…」

「…っ!…テメェ…」


テルミの奥底で息を潜めるような寝ていたハザマは、急に浮上した為かいつもより反応が鈍く、素に近い。そんなハザマにラグナはやはり攻撃できなかった。そして今は憎そうにハザマを、いや、ハザマの中に潜んだテルミを睨む。

愉快だった。


『ヒ、ヒヒ、ヒーヒッヒヒャハハハハ!やべ、まじうける。ヤバいとまんねー!」

「テルミさ……あらら』

「テメェは…!」

「優しいなぁ子犬ちゃん。ハザマちゃんには攻撃できないってか?」

「黙れ!!テメェはマジで許さねぇ!!」

「許さない?許さないって?俺がハザマちゃんを好き勝手使うことを?」


再び戻った二人の関係性。ハザマが利用されたと思ったラグナの憎悪が増加する。優しい彼が滑稽で仕方がなかった。なぜなら彼が被害者と感じるハザマはテルミのモノなのだから。彼自身テルミにそう使われることを幸福に感じているのだから。


「残念だなぁ子犬ちゃん」


繰り出される攻撃をいとも簡単に避けながらテルミは笑う。


「ハザマちゃんは俺の所有物(モノ)なんだよ」


しかし、その声はモノに対する声にしては、いくらか優しいものだった。





end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ