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□所有物
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テルミにとってこの依り代の存在はなんなのか。
「テメェは…あいつを道具としてしか見てねぇのかよ…!」
随分と怒りに歪んだ声だったように思う。復讐のために自分を追うなかで、男―ラグナは気づいてしまった。自分とは違うもう一人の男の人格に。
確か自分が彼から離れていた時のことだったような気がする。ラグナは自分が復讐しようとしている男はただの精神体であって、自分が傷付けた相手はその依り代であることを、そしてその依り代には感情があると言うことを知った。知ってしまった。
「テルミイイイ!!」
「ハザマちゃん」
『なんでしょ……は?」
「…っ!?」
そして気づいた後、優しい優しいラグナくんはハザマを攻撃しなかったらしい。その話が実に興味深かったので、今まさにラグナの攻撃が当たる、という所でテルミは身体の主導権を手放した。つまりハザマを表に出してみたのだ。
がらりと変わった雰囲気にラグナが目を見開く。振り上げられていた腕は慌てて方向を変え、空気を震わすだけに終わった。
「…ビ、ビックリした…」
「…っ!…テメェ…」
テルミの奥底で息を潜めるような寝ていたハザマは、急に浮上した為かいつもより反応が鈍く、素に近い。そんなハザマにラグナはやはり攻撃できなかった。そして今は憎そうにハザマを、いや、ハザマの中に潜んだテルミを睨む。
愉快だった。
『ヒ、ヒヒ、ヒーヒッヒヒャハハハハ!やべ、まじうける。ヤバいとまんねー!」
「テルミさ……あらら』
「テメェは…!」
「優しいなぁ子犬ちゃん。ハザマちゃんには攻撃できないってか?」
「黙れ!!テメェはマジで許さねぇ!!」
「許さない?許さないって?俺がハザマちゃんを好き勝手使うことを?」
再び戻った二人の関係性。ハザマが利用されたと思ったラグナの憎悪が増加する。優しい彼が滑稽で仕方がなかった。なぜなら彼が被害者と感じるハザマはテルミのモノなのだから。彼自身テルミにそう使われることを幸福に感じているのだから。
「残念だなぁ子犬ちゃん」
繰り出される攻撃をいとも簡単に避けながらテルミは笑う。
「ハザマちゃんは俺の所有物(モノ)なんだよ」
しかし、その声はモノに対する声にしては、いくらか優しいものだった。
end