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□愛しいのは誰?
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「もう止めましょうよ〜」
「何言ってんだよカズマちゃん。今大事な所だぜ?さっさと気配消して黙ってろ」
「うぅ…」
とある喫茶店の端の端の席に腰掛けたテルミは、居心地が悪そうにそわそわとするカズマに向かって、大袈裟に肩を竦めてみせる。
兄の言葉にうなり声をあげながらも、気配を消すことは先程から怠らないカズマの目線の先には、己のもう一人の兄の姿。
「くそ、子犬ちゃんの癖にハザマちゃんに笑いかけてもらえるとか何様だよ」
だいぶ離れた場所にいるハザマの表情は少ししか伺い知ることは出来ない。そしてそのハザマの前には、やけに緩んだ顔(テルミはアホ面と称した)を浮かべるラグナ=ザ=ブラッドエッジの姿があった。
ハザマが知り合いとお茶をしに行くと聞いて、テルミはカズマを引きずりながら後をつけてきていたのだ。
昔の探偵ものよろしく新聞紙で顔を隠したテルミがグシャリとそれを握りしめた。
「……ハザマさん、嬉しそうですね」
「…あ?んだよカズマちゃん」
ラグナが手振り身ぶりを付けて話せば、ハザマの肩は軽く揺れ、手は口元へと運ばれる。そんな兄の様子を見て、カズマは軽く俯いた。
「カズマちゃんだって立派に嫉妬してんじゃねぇか」
「え、えぇ!?」
「お兄ちゃんがとられたようで悔しいんだろ?」
「ぼ、僕はそんなつもりじゃ…!」
「…何してるんですか貴方達」
「「あ」」
テルミの言葉に反射的にカズマが音を立てて立ち上がる。人々が談笑する音だけが存在しているそこでその音が目立たない訳もなく。
二人の前には、ラグナというおまけを引き連れたハザマが呆れた顔をして立っていた。
「ストーカーかよ。お前らマジでブラコンだな」
「あ゛ぁ?ブラコンかつシスコンのラグナくんに言われたくねぇんだけど」
「んだとコラ!!」
「だいたいなぁ…子犬ちゃん程度がハザマちゃん狙うとか調子に乗ってんじゃねぇぞコラ!」
「あぁ?人が誰を狙おうが勝手だろ!お義兄さまは黙ってろ!このバカ!!」
「てめっ、なに勝手に人をお義兄さまとか言ってんだ、胸くそ悪りぃんだよバカが!!」
「バカっていう方がバカなんだよ!」
「調子に乗ってっとマジで殺すぞ…!」
犬猿の仲である二人が胸ぐらを掴み合い、睨み合い、技を繰り出す。昼下がりのオシャレなカフェには似合わない稚拙な雑言罵倒が飛び交っていく。
二人の様子を見ながらハザマとカズマはため息をついた。
「本当に過保護ですねぇ…」
「ごめんなさいハザマさん…」
「いいですよ。心配してくれる気持ち自体は嬉しいですから」
申し訳なさそうに俯いたカズマの頭をハザマが優しく撫でる。
「しかし、この後仕事でレリウスと会う予定だったんですが」
この様子だと行けませんね。そう言い終わる前にハザマの口が閉じた。
カズマが彼の服の裾を引っ張ったからだ。
「…カズマ?」
「い…」
「い?」
「行かないで下さい…」
恥ずかしいのか俯きながら絞り出された声に、ハザマは一瞬だけ普段閉じられた瞳を開ける。そして愛らしい弟の仕草にもう一度頭を撫でると笑った。
「そうですねぇ…どこかに出掛けましょうかカズマ」
「!…は、はい!」
嬉しそうに顔を上げたカズマにハザマも嬉しそうに微笑む。ハザマだってなんだかんだいってブラコンなのである。
そして、二人が去ったことにテルミとラグナが気づくのは、もう少し後の話であった。
end
リクエストありがとうございました!!
まさかのカズマ落ちになってしまいましたが、気に入っていただければ幸いです。ナオ様のみお持ち帰り可能です。