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□優しい君は
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ラグナにとってあの男は憎むべき相手であり、己の手で殺してやりたい相手のはずだ。
己の家族、人生をメチャクチャにしてくれた残虐非道な外道野郎。
しかし、少し離れた場所に腰掛ける彼からは、そんな奴の臭いがしなかった。
「そんな所で何突っ立ってるんですか子犬ちゃん」
戸惑うラグナをちらりと黄金の瞳が捕らえ、元の糸のような目に戻っていく。口元に浮かぶ笑みはいつも通りでラグナの頭をまた混乱させる。
「…お前は誰だ?」
「本当にどうしたんですか?貴方がだいっきらいなハザマ、ですよ。もうボケが始まっちゃいました?」
可哀想に。そういった「ハザマ」はくすりと笑う。「テルミ」のように明らかな敵意のある笑みではない。それにラグナは眉をしかめた。
「…テルミは」
「おやおや。目の前に居るじゃないですか。本当にいい病院でも紹介しますよ?」
「お前は違うだろ。テルミはどこだ」
「…馬鹿でも勘は鋭いんですかね」
しつこく問えば、ハザマは面倒になったのか失礼な事を言いながら、目を開きラグナを見据えた。蛇のような笑みである事は同じなのに、何かが違う。
「…テルミは」
「しつこいですねぇ…今日はこの体には居ませんよ。多分まだ帰ってきません」
「お前はなんなんだ?」
「質問ばっかり…貴方は小学生ですか。まぁ暇なんでどうでもいいんですけどね。先程も言いましたよ?ハザマです」
こんばんは。そう言った彼にラグナはどう返したものか悩む。顔はあいつと同じなのに雰囲気から何まで違うハザマにどう接したらいいのか分からなかった。
「よく分からないって顔してますね。まぁ仕方ないかも知れないですけど。」
「テルミとお前は一緒じゃないんだな?」
「あー…どうでしょうか。違うといえば違います。説明しても貴方に理解できなそうですし面倒です。」
人を馬鹿にしたようにハザマが言うが、ラグナはあまり内容が頭に入ってこなかった。
もし、もしラグナがテルミを殺すとするならこの男はどうなるのだろうか。体に居ないということは、普段はこの体に居ると言うことで。テルミを殺すということは。
一人考えるラグナをハザマは機嫌良さそうに眺める。
「ねぇラグナくん」
いつも呼ばれない名前に、過剰に肩が跳ねる。驚き顔を挙げれば、更に肩が跳ねた。
ハザマは楽しそうにラグナを見ていた。そして。
「君は優しいですね」
今まで見たこともない子供のような笑みでそうラグナに言うのだ。
月明かりに照らされた彼の顔に、自分の中の何かが壊れていきそうだった。
end
ラグナはなんだかんだ優しいので躊躇いそうだなって