おいでませルミナシア

□※場所に意味
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抱き締められた体は少しだけ苦しかった。まるで離さないとでもいうかのように回された腕にそっと触れた。自分より、体温が低いそれを撫でる。


「トキ」


自分の肩に顔を埋める彼は何も反応を示さない。その事について浮かんできた感情は、怒りでも呆れでもなく愛しさ。

自分と共に永いときを過ごしてきた彼は、常に冷静だ。人の前では常に完璧な仮面を被っている。


「…なに笑ってんだよ」


しかしそれは、クラトスの前では外れる。やっと顔を離した彼の表情は見た目相応に幼い。クラトスはその事にどうしようもない嬉しさを感じるのだ。


「いや…ずいぶん甘えたがるな、と思ってな」

「悪いか」

「…ふふ」

「…笑うなよ」


笑うとトキは不機嫌そうに尋ねる。それにまた笑うと今度は口を塞がれた。その優しい口付けにクラトスはそっと目を閉じる。侵入して来た舌にそっと応えれば嬉しそうに笑う気配がした。


「…ん…」

「…クラトス」


離された口には名残惜しそうに銀の糸がかかる。飲み込めなかった分の唾液を彼の指が優しく拭う。

愛しそうに呼ばれた声に誘われて目を開けると、声と同じ感情を灯した瞳と視線が交わる。


「…なんだ?」

「甘えたい」


やんわりと手を掴まれ後ろへと倒される。その時にも傷つけないように配慮された腕がくすぐったくて身を捩る。真っ直ぐに黄金の瞳に見つめられて、頬に熱が上るのを感じた。

頬に添えられた手が優しく撫でる。その手を掴むと、驚く彼を横目に手首に口付けを落とす。

目を細めた彼はお返しとばかりにクラトスの首筋に触れる。


「なぁ」

「…どうした?」

「キスする場所に意味があるって知ってるか?」


面白そうに笑う彼の笑顔はいつもと違い、作られた笑いではない。クラトスだけにみせる本当の笑顔。


「そう…なのか?」

「さっきクラトスがしてくれた手首」


そこは懇願。そう言われてかぁっと顔に熱が集まるのがわかって恥ずかしくなって顔を反らす。そんなクラトスの様子に愛しそうに笑うトキは、再びその首元に顔を埋めた。


「…っトキ」

「首筋は」


彼が喋る度にかかる吐息にくすぐったくて身を捩り、顔を反らすが添えられた手によりそれは叶わず、視線が合った。


「欲望…なんだってさ」


そう言った彼は、確かに瞳の奥にゆらりと揺れたそれを秘めながら、今度は唇へと触れた。彼が望んでいるであろう行為にクラトスはそっと目を閉じ、その身を預けた。

穏やかな夜は、まだ始まったばかりだった。



(唇は)

(愛情)




end

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