短編
□別腹
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「………」
朝、少しだけ早起きな人たちが立てる足音にカノンノはそっと瞼を開けた。
瞬間に感じた温もりと、さらりと触り心地のよいものに少しずつ意識がはっきりとしてきた。目の前に落ちる銀と青の珍しい髪に触れようとしたが、柔らかく自分を包んでいる腕がそれを許さなかった。
「…ふふ」
そっと抱き締められているこの状況が酷く幸せなものだと思う。
「…リヒト」
まだ眠っている様子の彼にカノンノは少しだけ伸びて触れるだけのキスを送った。それに長い睫毛が少しだけ震えてうっすらと目が開く。さ迷っていた視線はやがて自分の腕の中のカノンノを見つけると、ふわりと微笑んだ。
「……カノンノ」
「ごめんリヒト、起こしちゃったね」
「…いえ」
謝るカノンノにまた微笑んだリヒトは、その腕でそっと引き寄せると先ほどのカノンノのように彼女の唇に触れた。
「おはようございます」
「うんおはよう」
はにかむカノンノにリヒトは再びキスを送る。甘いものが嫌いなリヒトの部屋が甘ったるい空気に包まれる。この甘さは嫌いではなかった。しばらくお互いに抱き締めあっていた二人だが、先程より騒がしくなってきた廊下。時計を見ると意外にも時間は過ぎていた。
「今日はどうしようか」
「カノンノ、こないだ買い物したいって言ってませんでしたか?」
「あ、うん!気になるお店があるの!」
「じゃあそこに行きましょう」
起き上がったリヒトの答えにカノンノが嬉しそうに頷く。
今日もまた無自覚なバカップルの一日が始まるのだ。
end
同じベッドでは寝てますがいやらしいことはしてません(笑)