短編
□教えてよ
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サレヴェイ
「…ヴェイグ?」
こいつは俺の苦しみに歪んだ表情が見たいと言う。
「どうしたんだい?…気分でも悪い?」
それなのに、俺に触れるこいつの手は酷く優しい。まるで壊れ物に触れるかのような手つき、言葉使い。
「ヴェイグ」
そして、奴らしくもない表情で俺を見るのだ。本気で心配しているような表情は、他の仲間がいるところではなかなかお目にかかる事が出来ない。真面目な顔をしていればかっこいいのにな、なんて思考回路がずれる。
「わからない」
「?」
「俺はお前がわからない」
俺を傷つけようとする手で俺を優しくなでる。俺に酷い言葉を言う口で、俺に愛しいと言う。
「…へぇ?」
「お前は俺に何を求めている?…お前は、なんなんだ」
わからないんだ。こいつの事も、そんなこいつの行動一つ一つに一喜一憂する自分も。モヤモヤとした気持ちが胸を締め付けて、思わず俺は俯く。
「ヴェイグ」
優しく名前を呼ぶサレの顔が見れない。見てしまったらきっと戻れない。蓋をされて隠された気持ちが出てきてしまう気がした。
「顔をあげてよヴェイグ」
「…断る」
「ふふ、あげてくれたら教えてあげるよ…僕が君に何を求めているのか」
「………」
サレの楽しそうな声の後に長い沈黙が降りる。(といってもただ俺が黙り続けているからなのだが。)
時計の秒針の音だけが響く部屋の沈黙を破ったのは、俺ではなく、サレだった。
「僕はね、君が気に入らないよ」
「…っ」
その言葉が思っていた以上に心に突き刺さる。それが、どうしてなのかも、わからない。ただ胸が痛い。そんな俺に気づいているのかいないのか、サレは続ける。
「僕に剣を突きつけて、傷をおわせたのも、僕の玩具にならないのも」
「……」
「僕以外の奴等と喋るのも、僕以外の奴等とクエストに行く君も気に入らない」
「…?」
話が進むにつれサレの声音が優しいものになっていく。いまだに顔を上げない俺の頬をなでる手も、やはり優しい。思わず顔をあげて、後悔した。
「やっと、こっちを見た」
「…っ!」
見たことのないような穏やかな笑みを浮かべる彼と目が合う。バクバクとうるさく心臓がなり、顔に熱が集まる。こんな奴を俺は知らない。こんな気持ちも俺は知らない。
「君は、僕だけを見ていればいい…それが僕の君に望むこと」
「…っ俺は」
「愛しているよ?…ヴェイグ」
囁くように言われた言葉に俺はどうする事も出来ず、ただサレの目を見つめることしか出来なかった。
(だって知ってしまった)
(俺の気持ちがなんなのかも、お前の気持ちがどうなのかも)
(俺は、お前が)
end
サレ様はきっと紳士にもなれるんだ…!と思って書いたら別人になった罠