短編

□教えてよ
1ページ/1ページ


サレヴェイ




「…ヴェイグ?」


こいつは俺の苦しみに歪んだ表情が見たいと言う。


「どうしたんだい?…気分でも悪い?」


それなのに、俺に触れるこいつの手は酷く優しい。まるで壊れ物に触れるかのような手つき、言葉使い。


「ヴェイグ」


そして、奴らしくもない表情で俺を見るのだ。本気で心配しているような表情は、他の仲間がいるところではなかなかお目にかかる事が出来ない。真面目な顔をしていればかっこいいのにな、なんて思考回路がずれる。


「わからない」

「?」

「俺はお前がわからない」


俺を傷つけようとする手で俺を優しくなでる。俺に酷い言葉を言う口で、俺に愛しいと言う。


「…へぇ?」

「お前は俺に何を求めている?…お前は、なんなんだ」


わからないんだ。こいつの事も、そんなこいつの行動一つ一つに一喜一憂する自分も。モヤモヤとした気持ちが胸を締め付けて、思わず俺は俯く。


「ヴェイグ」


優しく名前を呼ぶサレの顔が見れない。見てしまったらきっと戻れない。蓋をされて隠された気持ちが出てきてしまう気がした。


「顔をあげてよヴェイグ」

「…断る」

「ふふ、あげてくれたら教えてあげるよ…僕が君に何を求めているのか」

「………」


サレの楽しそうな声の後に長い沈黙が降りる。(といってもただ俺が黙り続けているからなのだが。)

時計の秒針の音だけが響く部屋の沈黙を破ったのは、俺ではなく、サレだった。


「僕はね、君が気に入らないよ」

「…っ」


その言葉が思っていた以上に心に突き刺さる。それが、どうしてなのかも、わからない。ただ胸が痛い。そんな俺に気づいているのかいないのか、サレは続ける。


「僕に剣を突きつけて、傷をおわせたのも、僕の玩具にならないのも」

「……」

「僕以外の奴等と喋るのも、僕以外の奴等とクエストに行く君も気に入らない」

「…?」


話が進むにつれサレの声音が優しいものになっていく。いまだに顔を上げない俺の頬をなでる手も、やはり優しい。思わず顔をあげて、後悔した。


「やっと、こっちを見た」

「…っ!」


見たことのないような穏やかな笑みを浮かべる彼と目が合う。バクバクとうるさく心臓がなり、顔に熱が集まる。こんな奴を俺は知らない。こんな気持ちも俺は知らない。


「君は、僕だけを見ていればいい…それが僕の君に望むこと」

「…っ俺は」

「愛しているよ?…ヴェイグ」


囁くように言われた言葉に俺はどうする事も出来ず、ただサレの目を見つめることしか出来なかった。






(だって知ってしまった)

(俺の気持ちがなんなのかも、お前の気持ちがどうなのかも)

(俺は、お前が)






end
サレ様はきっと紳士にもなれるんだ…!と思って書いたら別人になった罠

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ