短編
□甘い甘い
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リヒトには小さな疑問があった。
依頼を終えた穏やかな昼下がり。おやつを食べるべく、食堂に行くと言うカノンノについていくと、扉を開けた瞬間に甘い香りがふんわりとする。
甘いものが苦手なリヒトは人が甘そうな物を食べているのを見るだけでも、気分が悪くなる。匂いなんてもっての他だ。吐きそうになる。
「リヒトは、本当に苦手なんだね」
「…そうですね」
部屋の向こうで何やらすごい生クリームの乗ったプリンを食べているリオンを、あり得ない…と呟きながら見ていたリヒトはカノンノの言葉に頷く。
美味しいのになぁ…と呟くカノンノが嬉しそうに通常の量の生クリームが乗ったプリンを口に運ぶ。
リヒトの疑問とはここで生まれる。
「…?どうしたの?」
「いえ、美味しそうだな、と」
「え?プリンだよ?」
甘いんだよ?と不思議そうに聞くカノンノにリヒトも首を傾げた。確かに彼女が食べているのはプリンなのに、何故か美味しそうに見える。
「食べてみる?」
はい、あーん、と差し出されたスプーンには一口で食べれそうなサイズのプリンが乗せられている。乗せられたプリンとスプーンをこちらに伸ばし食べるのを待っているカノンノを交互に見る。
少し躊躇ったリヒトは軽く身を乗り出すと、ちょこんとのったそれを口に含んだ。
「…どう?」
「…………甘いです」
長い沈黙の後ようやく言葉を発したリヒトにカノンノは苦笑いしてみせる。
「なんで美味しそうに見えるんだろう?」
「わかりません」
水を必死に飲みながらリヒトは再び首を傾げた。カノンノは最後のひと欠片を口に運び、礼儀正しく手を合わせた。
「あ、カノンノ」
「うん?なぁにリヒ…っ!?」
ついてます、と告げたその口はそのまま彼女の頬についた少量のプリンを舐めとる。
真っ赤になり固まるカノンノと、ガチャーンというスプーンが落ちた音を全てを気にすることなくリヒトは納得したように頷き、呟いた。
「…美味しいです」
「もぅ!リヒト!」
「な、なんで怒ってるんですか…」
リヒトには疑問がある。それは愛しい人の食べるものは、たとえ自分が嫌いなものでも美味しそうに見えるということだ。
end