短編
□約束一つ
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ラザリスとの決戦を明日に控え、ヒスイは何故かブレイズと共に大森林へと来ていた。
明日になれば、目の前の男は、リヒトと2人だけでラザリスの元へと向かう。ブレイズはまだやることがあるとか言っているが、彼女を倒した後、2人がどうなるかなんて、きっと本人達もわかってなんかいない。
皆それがわかっているから船内の空気はなんだか重い。表面上は明るく振る舞っていても、心のどこかで彼らがいなくなってしまうのではないかと不安なのだ。
「で?今日は何の依頼なんだよ」
「プチプリ10体。簡単なのにした」
「マジで簡単なのじゃねぇか…」
そんなもん1人でやれ、と言おうと開いた口は何も発することなく閉じ、ヒスイはうつむく。どんなことでも今は一緒にいたい。柄じゃない自分の考えにヒスイは内心ため息をついた。
「ごめん。でも、今日はヒスイと一緒にいたかったんだよ」
「…!!」
まるで考えを読まれたかのようなタイミングで落とされた言葉にヒスイは顔を上げ、後悔した。
ブレイズが物凄く優しい、でもどこか悲しげな顔をしてこちらを見ていたからだ。
「…なんつー顔してんだ」
「ん?なんか言った?」
「…なんでもねぇよ!」
「な、なんで怒ってんの…?」
ドスドスと音がするほど早足で歩き始めたヒスイを慌ててブレイズが追う。
(だいたいなんなんだよ!!今日は一緒にいたかったって。まるで明日いなくなるような言い方しやがって!!)
いつのにか足は止まっていて、俯いたままヒスイはぎゅうっと拳を握った。心配したらしいブレイズが前に回り、顔を覗き込むが、頑なにヒスイはその顔を見ようとしなかった。
「ヒスイ」
(見たら、涙が、出そうだからなんかじゃ、ねぇ)
「…ヒスイ」
(…んなに優しい声で呼ぶんじゃねぇよ)
「……ごめん」
今日は謝ってばっかりだな、なんて皮肉も出ずに下を向き続ける。
そんなヒスイにブレイズは苦笑いをすると背を向け空を仰いだ。木々の隙間からみえる空は澄んでいる。
「…俺は明日、ラザリスと決着をつける。必ず助ける。この世界も…ラザリスも」
「…」
「…伝説通り、世界樹に帰るんだとしても」
「…っ…」
それでも俺は行くよ。あの場所に。
そう言ったブレイズの声に迷いなんてなくって。それが、辛かった。行くななんて言えるわけがないのだ。言ったって聞くわけもない。
でもだからといって、ずっと無言でいるのは腹が立つ。
「…っおい!!バカブレイズ!!」
「え」
俯いたまま、しかし握った拳を彼の背にぎゅうっと押し付けヒスイが叫ぶ。
その声に辺りの木に止まっていたであろう鳥たちが飛び去っていく。
「必ず……必ず帰ってこい!!そんで帰ってきたら一発殴らせろ!!」
前を向いているブレイズの表情をヒスイが伺い知ることは出来ない。しかし、押し付けた拳は確かに彼が震えたのを感じとった。
「…帰るよ。絶対、絶対帰ってくるから」
絶対待ってて。
優しく言われたその言葉に今度こそ、ヒスイは堪えきれず下を向いた。
end
絵から書いたものです。
バカブレイズって言わせたかったんです…。