短編
□震える声
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身体が何かに蝕まれるような感覚にリヒトは小さく身震いをした。ラザリスの元に行ってしまう前に、一緒にコンフェイト大森林に行きたい。そう言ったカノンノは今少し離れた所でスケッチをしている。
「………うっ…ぐすっ…」
「…カノンノ?」
自然をボーッとしながら眺めていると、カノンノが小さく息をするような、声を出すのを抑えるような音が聞こえた。
その目元は濡れているように見えて慌てて駆け寄ると、カノンノはびっくりしたようにして首をふった。
「ごめんリヒト…もう行こう?」
「……」
「リヒト?」
「なにか、隠してませんか?」
何かを我慢するような、悲しそうな顔をするカノンノの目元の涙を拭う。こんな表情をさせたくなくて言った言葉はさらに彼女の瞳に涙を浮かべた。
「リヒト…私、私」
貴方とずっと一緒にいたいよ。
願うように呟かれたその言葉にリヒトは目を見開く。ラザリスの所に行くということは、世界を救うということは、世界樹に帰るということなのか?それは自分にもよくわからなかった。
「…ごめん、困らせたね」
ずっと一緒にいる、と言いたくても言えず、黙っているとカノンノがまた悲しそうな顔でリヒトに謝る。
(そんな顔をさせたいわけでは、ない)
「ねぇリヒト?」
「…はい」
「…ちょっとだけ、ぎゅうして…いい?ぎゅう…したいの」
何故か泣きそうになって、その顔を見られたくなくてカノンノを先に抱き締める。優しく受け止めたカノンノが嬉しそうに笑うのが耳元で聞こえた。 それにさえも涙腺が弛むのを助けてしまう。
「リヒト、暖かいよ…」
「…カノンノ」
「うん?」
「…僕は、確かにディセンダーです」
「うん」
自分はもう1人のディセンダーのように心身的にも強くないし、うまく言葉にすることも出来ない。それでもカノンノに気持ちを伝えたくて、震える声で喋る。
「でも僕は、僕は貴女の隣に、いたいです」
「…ありがとうリヒト」
ぎゅうっと抱き締め返してきたカノンノの声も少しだけ震えているような気がして、強く抱き締めた。
end
絵から書いた文です。
「あなたを描く」スキットをリヒト視点で書きたかったんです。