グラニデ
□曖昧
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likeとloveは違うとかなんだとかいう雑誌が、無造作に机の上に置かれているのをルーチェはそっと手に取った。
きっとさっきまでは女の子達の話の中心であったであろうそれは、今では片付けられることもなく放置だ。
雑誌を適当に捲りながら、ルーチェはこないだのゼロスの言葉を思い出していた。
『お前ヴェイグのこと好きだろ?』
ヴェイグ。確かに彼のことは好きだが、ルーチェにはその感情がなんなのかいまいちよくわからなかった。
そもそも好きが、何か理解していない彼に愛してる、なんて解るはずもないのだが、それでも彼は理解しようとその雑誌を捲った。
「ルーチェ、何をしている?」
捲られる音だけが聞こえていた部屋に、聞き慣れた低音が聞こえてルーチェは顔を上げた。
「お帰り、ヴェイグ」
「あぁ、ただいま」
で、何をしているんだ、と近づいてきたヴェイグが目線だけで問いかけてきたので、小さく首をひねった。それを不思議そうに此方を見つめてくる彼にルーチェは心底困ったという表情を浮かべた。
「ヴェイグ、好きってなんだろう」
それを聞いたヴェイグはしばらく、呆気に取られたように目を瞬いていたが、すぐに困ったような顔になった。
「なぜ、そんなことを?」
「ゼロスが」
その名前を出した途端にヴェイグの表情が呆れに変わる。また、あいつか、と目が語っているのをルーチェは見ないようにした。
「お前ヴェイグのこと好きだろって」
「な…」
今度は顔を赤くした彼に、今日はいろんな表情が見れるなぁなんて呑気に考えた彼は前に立ったままのヴェイグの髪をそっと手に取った。
「俺の中でヴェイグが特別だってのはわかるよ。わかるけどこれが好きってことなの?」
「…カノンノはお前にとって特別か?」
いきなり出てきた他者の名前に、今度はルーチェが目を瞬かせた。
「特別だよ」
「なら、好きか」
「…好き、だと思う」
「それは俺に思う好きと同じ好きか?」
ルーチェは言われて首をひねる。カノンノは大事な仲間。頼りになるし、いい子。きっとこの気持ちは好き、だ。
ならヴェイグに対しては?触れたいと思う。知りたいと思う。笑っていてほしいと思う。そしてそれが俺の隣であればいいなんて。そんな感情が自分の中にあったことをルーチェは驚く。
これがカノンノへの気持ちと一緒?それは少しだけ違うことはルーチェにも理解できた。
好き、でないなら。
「ヴェイグ」
「…なんだ」
どうやら、喋り過ぎてしまったことを後悔しているらしいヴェイグは此方を見ようとしない。それでも構わずに彼の髪にそっと口付けた。途端に驚いて此方に振り向いた彼に、小さく笑いかけた。
「俺、ヴェイグの事愛してるんだと思う」
言った瞬間に赤くなった彼を可愛いと思ったことに対して、ルーチェはもう驚かなかった。
(曖昧な境界線)
end