LUCKY DOG1

□隠密にジャングルで
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「はぁ〜い、ダーリン」


「やぁハニー…――っと」


―ジリリリリ……


俺が部屋に入った途端にまた報告の電話が入ってきた。うあ〜相変わらず忙しいなぁ幹部筆頭様は。いつ来ても連絡網のベルは鳴り止まない。ごめんと告げられた俺はソファーに座り、コーヒーを入れて一人啜る。
この部屋には何十本もの電話線が床を埋め尽くしている。幹部や役員の自宅、お役所とか市警のオフィス、シマにあるバーやカフェとかの店舗の電話、公衆電話に回線が分けられていて壁の穴から皆外へ繋がっている。送信用と受信用にもちゃっかり分けられてあり回線の種類ごとにもベルの音が変えてある。全部ベルナルドが手懸けたものだ。もう凄いとしか言いようがないってもんよ。
色んな音色が混じって部屋に響く。ここ、ベルナルドのシマは電話線のジャングルみたいなもんなのだ。俺にとってベルナルドがいるこの場所は憩いの場所でもある。


アレッサンドロ親父が帰ってきて、皆一安心。組織も安泰になった。でもそれがまた新たな起点になっていつになく多忙な毎日が続いていた。俺はと言うとカポ就任に向けてそれらしい仕事も必死で覚えている。毎日毎日嫌というほど扱かれて肉体が悲鳴を上げている。うん、これも未来のボスとして相応しい容儀に為るためだ。弱音ばっか吐いちゃいけねぇ。



暫く断続していたベルが鳴りやんで部屋が静まり返った。ベルナルドはその高級そうな椅子の背もたれに身を預け深く一息ついた。


「おつかれちゃん、コーヒーいるけ?」


「あぁ…すまない。お願いするよ」


砂糖もミルクも入れない、眠気も吹っ飛ぶような濃ーいブラックコーヒーをベルナルドに差し出す。さっきまで浮かべていた気難しいような堅苦しい表情が、ふっと綻んだ。
ん〜…ベルナルドここ1週間の間でちょっと老けた?なんかやつれて見える様な……。


「ダーリンの前髪が抜け落ちないか心配よ」


「フハハ、近いうちにそうなりそうで恐いよ」


「ルキーノも、な……ククッ」



今は笑って話せるがいずれはそうなるものだからまた怖い。歳には逆らえない、とか言い草を吐くものだ。



「ジャン、カポの仕事の方はどうだ」



おっと来ました。
ではこのカポの仕事の多忙っぷりを教えて差し上げましょう。



「それがさー大っ量に積まれた書類に目通して署名させられたりさー手が腱鞘炎になって目がショボショボしやがんだ。それだけじゃねぇ、二代目カポとしてシマの衆人ら街のカタギに挨拶しに回されたりしてさー、で夜には役員や爺様方と食事会。それが毎日毎日。マジでノイローゼになるっつの」


「ははっ、大変だなお前も。まぁ今はみんながみんな、多忙な次期なのさ。それを乗り越えればきっとそれなりの成果は表れるよ」



「だといいけどな…」



そう、ボス不在で何もかも崩れかけていたCR:5を元に戻さないといけない。色々やらなくてはならないことが山ほどある。最近はだから幹部のみんなとはまともに会えていないのだ。みんな頑張ってるかな……。
うん、ベルナルドとも実は1週間ぶり。


「こうやって、ジャンに触れるのも久しぶり」


「あらあら、ダーリンったらどうしたのかしら?」


「無性にジャンを抱き締めたくなっただけ」



俺の肩をベルナルドは掴み、ふわっと優しく抱き締められた。ちょっと出し抜けで一瞬驚いたけど。
俺もそっと背中に手を伸ばしベルナルドのごつい身体を引き寄せた。俺のちっちゃい身体はすっぽりとベルナルドの腕の中に納まってしまった。鼓動が直に聞こえる。

ふわりと香るフローラルの匂い。

久しぶりに感じるベルナルドの体温。

あったくて…なんかこう凄く安心する。心地いい。一気に愛しさが込み上げてくる。



「ベルナルドぉ〜」



なんか無性に甘えたくなって、頬と頬をくっつけるように縋った。



「おやおや、甘えん坊さんだねハニーは」



いつもならうっせぇとかバカとか言って軽くスラングを吐くが、今これは自ら故意でしたことだし…然りである。俺にだって甘えたいときがありますよーだ。

そんな俺の思考はベルナルドからキスで途切れた。



「……ふっ…、…ん……」


「…っ、…ジャン……」



軽く口をついばむようなキスから、やがて激しいものへと変わっていく。歯列を舐められ、舌をねっとりと絡められたり吸い取られたり、口腔を器用に犯される。くちゅくちゅと唾液の混ざる水音が耳に響いていた。
脳と腰ががとろけるような感覚に一気に襲われる。濃厚で甘い甘いキス。いつのまにか俺は夢中になっていた。
ああ…やっぱこいつうまいわ……。



「…ハァ……、暫く…お預け状態だったからね、我慢の限界…かも…」


「マスかいたりしなかったのけ?」


「まさか、そんな時間の余裕もないよ」


「じゃあ今ラッキードッグがあなたのフラストレーションを解消してあげちゃう」


「…無論そのつもりだよ」



その言葉を基にトサッと躯をソファーに倒された。
仕事で溜まった疲労感なんてもう屁じゃない。さっきのハグからこの状況に至まででもう疾うに忘れてしまった。


今、目の前のベルナルドが…欲しい。



「優しくしてね、ダーリン?」


「お任せあれ、ハニー」



他のことなんか考えずに、今だけはずっと…ベルナルドをいっぱいに感じていたかった。












後日、腰砕けになって身動き出来なくなる羽目になるのは言うまでもない。
ま、自業自得だし…仕方ない、か。













――愛する人を欲するのに理由なんてないでしょう?

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