novel

□わがまま
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「…それ、楽しい?」


「うん!」


ソマリは不思議そうに聞いてきた。

かれこれ数十分、…私はソマリの髪を弄っていた。

長いままの髪は、ロデにいたあの頃となんら変わりない。
女である私さえ羨ましいくらいにツヤツヤと輝く長い髪。



「…長いままだね」


ぽそりと言った小さな呟きにソマリは少しだけ頷いた。


「…うん…、君といたときと同じまま…」



髪が長くなるまでの思い出という過程がなかったソマリ。
ロデの中で確かに存在していたソマリが魔王を倒した瞬間に消えてしまったとき、絶望に似た悲しみに襲われた。

目覚めてもロデでのことは夢なんかじゃなかった。



悲しくて、寂しくて…会いたくて。





「ただいま」と声がした瞬間、目の奥がじんわりと熱くなった。




この世界に生まれ変わったソマリは、会えなかった時間を埋めるように私の傍にいてくれる。

仕事以外の時間は必ず連絡してくれるし、会いに来てくれる。


なんとなく申し訳ないほどに。


「ソマリ…あのね、

忙しいなら無理…しないでね、私…大丈夫だから」


何が大丈夫かなんて自分でも分からないけど、私の寂しさを償うようなソマリの優しさに 私は随分甘えた。

今だって、いつソマリが消えてしまわないかと不安がよぎるけど…。



「違うよ、ニィナ

僕は いつだって君の傍にいたいからいる
だから、君のためもあるけど…これは僕の我が儘なんだ」


柔らかな口調でソマリは言った。


「こうやって…ニィナの傍にいることが、僕には本当に嬉しいことなんだ」


ふわりと微笑んで私を見る。


「…僕は君が思ってるより結構我が儘だよ?

今だって…」


「…!」


優しく触れる、唇。

それはすぐに離れたけれど 胸の高鳴りを大きくさせるには十分過ぎることだった。


「こうやって、君に触れたいと思ってる」



「っ…」


抱き締められて、温かい腕に包まれる。

それだけで泣きそうになった。




「もっと君に近づきたいよ…ニィナ…

…僕の我が儘、聞いてくれる?」




だめ…なんて言えないの、絶対分かってるくせに。



「うん…」





離れてた分を取り戻すように、…私は再び包まれた。



ソマリの髪が頬を撫でる。


「大好き…愛してるよ ニィナ」




大好きなあなたの可愛い我が儘くらい、叶えられることならいつだって叶えるから。


消えたりしないで。


そう 心の中で呟いた。




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