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□いつか、眠りにつく前に
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 このままこの幸せな時間が続けばいいのに……永遠ではないことを知りながら、邵可は願う。



 傍らにいる愛しい女の長い黒髪を一房取り、そっとくちづける。

 答えるように伸ばされた白い指先が、邵可の頬に優しく触れた。

「──のう、我が背の君」

 まどろみの時間を共に過ごしていた薔薇姫が、何故か躊躇いがちに声をかける。

「もし……もしもじゃぞ? 時が止められると申したら、そなたどうする?」

 そんな問い掛けに邵可は一瞬、目を瞠る。

 だがすぐに笑った。

「素敵だね──君とずっと、こうしていられる……」

 頬を撫でる指を取り、その先にそっとくちづける。

 きっと多くは望んでいない……ずっとこうして、君を感じていられるのなら。

「わっ‥妾は真剣な話をしているのじゃっ」

 薔薇姫はくすぐったさに指を引きながら、口唇を尖らせつつ頬を染める。

 邵可は身体を起こし、表情を改めるとその顔を覗き込んだ。

「それは──君のいたあの場所やその後に飛ばされた場所のようなとこにいればの話?」

 
 もしもの話ではないことを知る邵可に尋ねられ、薔薇姫は誤魔化す事をやめ、こくりと頷く。

「この世界には時の流れない空間がある──そこであれば、人の身であっても永遠に生きられる」

 妾と共に──

 言葉にならない、その願い。

「もちろん、君が望むなら、僕は全部叶えるよ──」

 人の身でありながら、仙女に恋した愚かな男。

 もし、共に生きて欲しいと乞われれば、どうして拒む事が出来ようか──

 その答えに薔薇姫の顔は悲し気に歪む。

「まるで愚かな人のようじゃ……妾も人の事は言えぬな」

 自嘲した薔薇姫は、再び邵可の頬に指先を伸ばす。

「かつて妾を自由にしてくれたそなたを、今度は妾が閉じ込めようとする……」

 それでも愛する男は異も唱えず檻に入り、自ら鎖に繋がれる。

 それが己の望みとは違っても。

「……つまらぬ事を言った」

 薔薇姫は深い息を吐く。

「忘れて欲しい」

「忘れないよ」

 間髪を容れる事なく答えた邵可はその白い指先を引き、その華奢な手首を掴むと己の胸に抱き寄せる。

「君が僕との永遠を望んでくれたのに、忘れる訳がない──」

 
 理を曲げてまで願う、誇り高い仙女の愛──愚かと知りつつ願う永遠。

 何一つ忘れない。

「永遠に愛しているよ」

 この身がいつか朽ち果てようとも。

「忘れないで」

 重ねた口唇の温もりを。

 刻み付けた、この愛を。






 いつか、眠りについたその後に



 僕は永遠の夢を見る──





 




 
 紅邵可本
「いつか、眠りにつく前に」
 2009年12月30日冬コミ発行

 


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