尊 宝

□星騒
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 藍色の空に星々が散らばり、月が世界を照らす夜。

宮城の一隅、訪れる者もいない庭。
流れる琵琶の音色は繊細で、それでいて時折力強く弾かれ、紡ぎだされる音には迷いがなく。華やかさには欠けながらも、伸びやかに吟われる音はとても優しかった。

「………。」

「………。貴様が五月蝿いからわざわざ弾いたんだ。礼位言ったらどうだ。」


丁寧に琵琶を終うその仕草とは反対に、雑に呟かれた言葉さえ優しく聞こえるのは月明かりの魔法か酒のせいか。

「……二つ目。」

「は?」

「…空に流れた星の数だよ。羽羽殿が言ってたんだ。昨日今日と流星が多く観れるって。本当だったみたいだ。」


流れ星は善くも悪くも有事の報せ。
それは何も国に限った事ではなく、名門藍家や紅家に関わる事かもしれない。

「……流れ落ちたのが俺達の運命か、天に残り耀く星が俺達の瑞祥となるか。」

隣の腕から銚子を奪い一口呑むと、突き返しながら草の上に寝転んだ。

「生憎俺は星占いなど信じてないんでな。貴様が何を考えているのか知らんが、俺は俺の出来る最善を尽くすだけだ。」

 
「さすが私の親友、頼もしいね。……三つ目だ。」

「親友じゃない!腐れ縁だ常春頭!!」

「あはは。いくつ星が流れても君は……私達は諦めない。そうだね、ありがとう絳攸。…静蘭の下に就いてからどうも思考が後ろ向きで。」

同じく、草の上に寝転んだ楸瑛の自嘲気味の言葉に思わず同情しかけながらも、手に触れた草をむしりながら絳攸は笑った。

「俺もお前も、静蘭も。今までは自分を飾って、飾られて生きてきた。だが今はそれぞれの冑を脱いで身軽になったんだ。使えないても出来たが、できることも増えた。例え星が幾つ流れてもやる事は同じだ。主上を護り支え続ける、それだけだ。」

「…絳攸、…君、お酒ののせいかな?それとも流れ星のせい?いつもより優しいね。言うこと男前だし。惚れてしまいそうだよ。」

「………いっぺん流れ星を頭に受けて死んでこい!」

「あはは、酷いな。……そうそう、我が上司殿に流星の話をしたら『星なぞ眺める暇があるのなら、流れ星の一つでも拾って売ってこい。』って言われたよ……。」

「……。」




月明かりに星々の耀きがとけ、優しく光がおりてくる。
風が酒と草の匂いを織り交ぜながら、優しく二人の言葉と決意を天に運んでいった。



 終
 

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