壱之庭
□剣舞
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「弾けない…のです、か?」
静蘭が驚いた表情を浮かべ、劉輝を見つめた。
何気ない会話を切っ掛けに…秀麗の二胡の話から楽の話になり、劉輝は静蘭に楽の素養がない事を打ち明けた。
「学問は邵可が、剣は宋将軍が教えてくれたが…琴や笛までは…」
劉輝の言葉の語尾が消える。
所詮たしなみとは言え、素養がない事を誇れる訳ではない。
困りましたね…静蘭が溜め息を吐く。
元々構われる事のない末の公子、おまけに混乱している最中に、楽なぞ教えようと考える者がいなくても不思議ではない。
そこに気付いてやれなかった己に歯噛みする。
「流石に私がお教えする訳もいきませんし…」
誰かの耳にその音色が届けば、不審を招く。
朝廷には未だ自分の奏でる音色を知っている者も残っている。
「──楽はお教え出来ませんが、代わりに剣舞をお教えしましょう」
暫く考え込んでいた静蘭が顔を上げ、そう告げる。
「剣舞?」
「ええ、それなら人に知られる事なく教えて差し上げられますから」
「…舞を、舞った事なぞないのだが」
恐る恐る告げる劉輝に対し、静蘭は必要ないとばかりに頭を振る。
「心配は無用です。主上は剣は使えるのですから、直ぐに舞えるようになります」
にっこりと静蘭が微笑み、劉輝は一瞬緊張を解く。
「そ、そうか?」
「…それに」
更に艶やかに静蘭が笑う。
「この私が一からみっちり教えて差し上げるのですから、きっちり舞えるようになって頂きます」
──思わず回れ右して逃げ出したくなるほど、それは煌々しい笑顔だった。