企画小説

□LOVE PHANTOM
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渇く、渇く。喉が胸の奥が。
幾ら人間を襲おうとも。幾らその血を飲み干そうとも。
渇く、渇く。渇いて飢えて、酷く苦しい。
嗚呼、俺の主。
俺をこんな体にした男、XANXUS。
彼でなければ駄目なのだ。彼以外にはこの渇き、飢えを満たすことはできない。癒すことはできないのだ。


スクアーロは渇く喉を飢えた胸を掻き毟るように押さえて、月光に輝く長い銀髪を踊らせ闇に身を溶かすかの如く疾走した。



目指す屋敷に音も無く侵入を果たしたスクアーロは脇目も振らずに求める相手の部屋まで走る。
目当ての部屋に入ると相手は綺麗で繊細な刺繍のされた薄い布が幾重にも隔てている豪奢なベッドの中に眠っていた。
永遠に朽ることのない死体のように美しく静謐な寝姿。
麗しい化け物。最愛の主。
側に寄り相手を覗き見たスクアーロは主の姿に息を詰める。
起こすのが躊躇われ出そうとしていた声も飲み込んだ。
しかしほんの少しの空気の揺れに気が付いたのか、或いは初めから侵入者に感付いていたのか、寝ていた筈のXANXUSが腕をのばしてきた。
「う゛ぉ!起きてたのかぁ?」
驚いて声を上げるスクアーロに薄闇の中に浮かんでいるかのような紅い瞳をひたと合わせてXANXUSはおかしそうに唇を歪めた。
「てめぇの気配は煩ぇんだよ。…昔と、変わらずな…」
かつて人間だった頃から、XANXUSの手によって化け物の同族と成り果てた今でも。
未だに人間じみているスクアーロをからかうかのようにXANXUSは言った。
「…だが、其処がいい…」
言葉を紡ぎながらXANXUSは掴んだスクアーロの腕を引いて身体を寄せる。
吐息が互いの肌を擽る程の距離まで近付くとそのまま静かに唇が重なった。
緩く強く軽く、何度か押し当てるだけの口付けを交した後、角度を変えたそれは深いものになっていく。
舌が触れ合い、互いの口内を探り、飲み切れなくなったどちらのものか分からない混ざった唾液が端から溢れ伝う。
呼吸すら絡め取るような口付けを離すと息が自然と乱れた。
荒い呼吸も整わない内に性急にスクアーロはXANXUSをベッドに押し付ける。
柔らかなベッドが二人分の重みを受け僅かに沈んだ。
XANXUSの晒された白い首筋から芳しい甘い香りがして、スクアーロは脳の命ずるままに鋭く尖った牙を突き立てようと近付ける。
後ほんの僅かで届くという所でXANXUSの掌がスクアーロの唇を覆い阻止してきた。
薄い皮膚を破り熱い甘美な液体で喉を潤すことができると夢想するかのように考えていたスクアーロは自分の想像が叶わなかったことに驚いて唸りを漏らした。
「う゛ぉい゛。XANXUS、手ぇ退けろよぉ。喉が渇いてんだぁ」
「ハッ。喉が渇いたんなら人間共の血でも吸やぁいいだろうが」
「う゛お゛ぉい!てめぇ分かってて言ってるだろぉ!!」
小馬鹿にしたようなXANXUSの台詞にスクアーロは文句を返す。
「分かってる、当たり前だろうが。てめぇから気持ち悪ぃ人間共の血の臭いがしてるからな」
気持ち悪い。とXANXUSは吐き捨てるように心底嫌そうに重ねて呟いた。
「仕方ねぇだろうがぁ。俺はお前と違って血を吸わなきゃ生きていけねぇんだよ」
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