Pandora Hearts
□過剰炎症
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「ブレイク、おい…どうしたんだ?」
ガンガンと叩かれる扉を押さえつけていると頭もガンガンと痛む。
ああ、もうあのワカメ…
「だ、大丈夫…ですカラっ…どっか、行ってください…」
涙で前がぼやけている。
あー…どうしてこんなことになっているんだろう?
力が抜ける。息が荒い。
へたりこむように床に膝をついて、鍵の閉められた大層立派な扉をもう一度だけ見上げておく。
外側からの断続的な呼び掛けに気が遠くなりそうだ。
おかしいな…私は紅茶アレルギーなんだっけ…?
それともケーキアレルギーなんだっけ…?
いや、ない、ないはずだ。
数分前までいつものメンバーでわらわらとお茶会を開いていた。
オズの突然の提案に、ギルバートが慌てて紅茶をいれて、ケーキが出てきてそれで…
食べていたら急に息が苦しくなった。
身体が一気に熱くなり、胸の辺りがむず痒い。
気持ち悪さはないが心地いいものでは勿論なく。
少々のプライドからあまり弱っているところは見せたくなかったため部屋に戻ってきたら、ケーキ食ってる途中で帰るなんておかしいとギルバートが追いかけてきて…
この状態。
死にゃあしませんヨとぼやいても、何処か頭がうかされていて言葉にならない。
掠れた声が空に力なく浮かぶだけ。
どうしたのだろう、この身体は。
這うように重い腰を引き摺ってベッドに横たわる。
未だに扉の向こう側にはギルバートがいるようで、尋常でない様子を感じたのか何やら喚いている。
うるさいうるさい…
頭が痛い。
「…、っふ…ぁ…」
甘ったるい声がもれて、慌てて口を閉じる。
外にいるギルバートに聞こえてしまったら本気で死ねる。
なんなんだ、本当に
ケーキ相手に欲情したのか?私は…
「ふ、ぅ、…死にたい」
ガシャガシャッ
ガラス窓の揺れる音がして、はたと振り返る。
どうやってまわったのか、オズがベランダに立っていて部屋との境の大きなガラス戸をへらへらと叩いていた。
…まずい
今この状態で会ったら何を言われるかわからない。
涙目で髪の毛はぼさぼさ、顔は多分紅くなっているし、息も荒いし、これは…言い訳もたたない。
だがここであのへらへら手を振る少年を無視すればどうなるかは目に見える。
結局、できるだけ平静を装ってガラス戸を少しだけ開く。
やはり従者より主のほうが頭はいいようだ。
「ブレイク大丈夫?急にどうしたの?」
「あー………いえ、大丈夫デス。少し気分が優れないだけですカラ」
そうなの?と顔を覗きこまれる。
今は顔を見られたくないと思わず顔を背けた。
「…気分優れないとブレイクは顔が紅くなるのかな?」
「…そうですケド…何ですカ?」
「熱でもあるんじゃないの?ほら座って」
ベッドに半ば無理やりに座らされてエメラルドグリーンに自分の隻眼を抉られるように見つめられる。
そっとオズの小さな手が額に触れた。
「…、ふ…」
「ちょっと熱いね。でも本当に熱なのかな?」
ふと一人言のように尋ねれて顔をあげた。
相変わらずオズはにやにやと笑っていて、同時に怒りやらなんやらよくわからない感情が込み上げた。
だが声にはならず涙となりそうだったため、ただ黙ってオズを睨み付けた。