Pandora Hearts

□自己相対
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大嫌い






大嫌いだよ









いつもいつも、その言葉から事は始まる。


陰鬱な空気は淫妖に歪められる。


自分の方へ伸びる手が、ひどく冷たくて、いつも振り払う。


だから、




だから、貴方が






大嫌いだよ














































こういう呼び出しを食らったのはこれが二度目。








『誰にも…誰にも言わずに来てね、帽子屋さん』







笑うオッドアイが嫌いだった。
いつも、あの男は何を考えているのか分からない。
兄がまだ、大分分かりやすい性格である分、不思議でたまらない。
最初に呼び出されたときは、シャロンのことで前科があったため何事かと、まるで威嚇する猫のような態度を示して、あの男の元へ向かった。


つまりは、今は、違う。


情けないくらい、嫌だ。だだっ子が喚くように泣き叫びたい。
行きたくない。行きたくない。
でも、どうして実際今ナイトレイの邸に向かっているのか。
わからない。あの男と…ヴィンセント=ナイトレイと同じくらいに、自分がわからない。



『こりゃ重症ですネ』



苦笑すると思い出す。

あの日の触れる指先やら、唇やら…

ぞわりと背筋を這う何かは、嫌なものではけしてなくて、やっぱり大嫌いだともう一度口先で呟いてみる。

認めたくない?

否、自分は彼が嫌いだ。

認めるも糞も、

事実は触れられたくないというそれだけ。

あの男が何度愛してると囁いたところで、自分はまったく揺らがない。


ただ気持ち悪いですネと顔を歪めて抵抗を表すだけ。



ああ、今日もまた


何かされるのかと、
酷く渦巻く心を呑み込んで、ブレイクはナイトレイの門をくぐった。














































「やあ、来てくれたんだね。帽子屋さん」



扉を開けたとたん満面の笑みを浮かべる青年。
そんなつもりできたわけではないとわざとらしいくらい嫌な顔をしてみせた。
くすくすとヴィンセントはズタズタにしたぬいぐるみを棄てて、鋏をしゃきんと一度確認するように鳴らしてから、アンティークな机の上に置いた。カシャンと軽い金属音が部屋に響く。

ヴィンセントは立ち上がり、ブレイクに近付いた。そっと頬に手を添えられたが嫌悪感を抱き、それを払った。
そうするとまたくつくつと笑って、青年は払われた手でブレイクの手を取り、引き寄せる。


ぐっと、見た目からは想像もつかないくらい強い力でいきなり引かれ、ブレイクは自然とヴィンセントに抱き付く形になる。


「帽子屋さんって大胆だね」


「まったく…おいたが過ぎますヨ?ヴィンセント様。私もそろそろキレそうなのですガ…」



用件は?とあからさまにめんどくさそうに呟いて、上目遣いに見るとヴィンセントは一言、



「帽子屋さんに会いたくなっちゃったの」


と笑ったきりだった。

え、それだけですカと怒りを呑み込んで尋ねれば、まあそうだねと笑顔が帰ってくる。



こいつは本当に調子を狂わせてくる。
苛々するどころでなく、ついうっかり殺してしまうんじゃないかと言うくらい………まぁ、結局苛々する。




調子が狂う。





いつものように、よからぬことを考えているのはわかっても、それを掴むことは出来ない。
そう、丁度霧のような。
呑まれてしまった自分は、彼の手中で喚いているような。





気に入らないネ。






そんな独り言を呟けば、なあに?と返される。


なんでもないから帰してくれと、そんな要求は即却下され、ドアに背中を押し付けられる。

ヴィンセントは片手をドアについて、ぐっと顔を寄せる。
どきりと胸がなるのは、恐怖からか、否、そんなこと全然、わからないけれど。
恐怖はしていない気はする。

では何故。


知らないと心が呟く。
知っていると躯が喚く。


知らない、知らない、大嫌い。


目を綴じて、呪文のように繰り返した。












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