Pandora Hearts
□某邸祭日
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本当は、
ただ利用しているだけだったのに、
いつからだろうか
こんなにも君を愛しく思い始めてしまったのは…
「ブレイク」
呼ばれ、振り返ると漆黒の癖毛が揺れた。
オズ君は?と尋ねると、出かけたと短く返ってくる。
どうも近くの街で祭典が開かれるらしく、そこに皆で遊びにいったようだ。
レインズワース家の別邸。
息抜きにと自ら提案し、首都をはなれ山間のここに昨日からやって来た。
別邸といえども、庶民から言えば並大抵の広さではない。
我々からすれば大したものではないが、オズたちは「すっげー!!」と目を輝かせていた。
「貴方は行かなかったのですカ?」
にっこりと笑うと金色の瞳が泳ぐ。
「まあな」とそっぽを向いたため、ああ、何かあるなと、またクスリと笑った。
「ああ、スミマセン。置いていかれたんですカ」
「ち、違う!!」
声をあらげる青年に、ギルバート君と名を呼ぶと耳まで真っ赤にしてぷいっと顔を背けた。
弄り甲斐があると思いブレイクは次々込み上げる笑みを、だらしなく着た上着のあまり袖で隠す。
「それじゃあ、何故デス?」
「う…………言わせるか…?」
言わせたいんですヨと囁けば、白いベランダに風がそよいだ。部屋の中から一向に出ようとしないギルバートは、装飾の施されたベランダの柵に寄りかかるブレイクを恨めしげに見つめる。
何故?もう一度尋ねれば、小さなふてぶてしい声が耳を通った。
「さ、最近…二人に…なってないから…俺は、だなあ…」
羞恥のあまり涙ぐんでいる。
苛めすぎたかとそよぐ風に押されるようにブレイクは部屋へ向かって歩きだした。
いつの間にか自分より背がのびた彼の頭を撫でる。
「上出来ですヨ」
ギルバートは、ぐう…と唸って、大人しく撫でられていた。
この癖毛の触感は変わらない。小さかったころも、今も。
思わず、可愛いネと笑いかければ煩いと制される。
「そうですネ、せっかく久しぶりに二人になれたのですから…」
久しぶりに、
ばっとギルバートが顔を背ける。有り得ないほど紅潮したそれをみて、人間ってこんなに顔が紅くなるものなのかと感心する。
「シたくないならいいんですがネ」
「い、いや…」
じっと見つめる。何か?と目で訴えると、ギルバートは俯いたきり何も言わなくなった。
「ちゃんと言わないとわかりませんヨ?」
また苛めてみる。
反応が本当に自分好みで、たまらなかったり。
どうしてそんなにいちいち突っかかるんだと怒られたことがあった。
あのとき、つい「好きだからデス」と言ってしまったから、こんなことになったのだ。
胸に秘め続けていた想いを言ってしまってから、言わなければよかったと後悔した。
同性からの、しかも嫌っているであろうものからの突然の告白に、私も好きですなんて返事をするバカがこの世のどこにいるか。気持ち悪いと一瞥されるのが関の山………のはずだったのだが。
ギルバートは今のように顔を紅潮させ、俯いたきり黙りこくった。
その反応に驚き、問いただすと返ってきた答えは
『俺も好きだったっ…』
…だった。
そのまま自然とこういう関係になった。愛していたから、そりゃあシたいものはシたい。
だから、苛めたいのだ。
自分だけに見せてくれる羞恥にまみれた顔が、愛しくてたまらない。
「私にどうして欲しいのですカ?」
うめくように、ギルバートは言った。
「俺を…だ、抱いて…下さい…」
「ワカリマシタ」
たまらないのだ。
何故かなど知らないが。