Pandora Hearts

□狂愛故縛
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『愛してる』






そういったら貴方はきっと顔を歪める。


貴方がいけないんだよ?


僕のもとから逃げ出そうとするから…




















鎖の擦れる音がジャラリと、暗く冷たい地下室に響いた。それよりもっと冷たい鎖の感触に気持ち悪さを感じた。
もう昨日からこの状態だ。手を地下室の壁に縛り上げられて、動けずにいる。


うっすらと金色が瞼の隙間から伺えた。黒い髪は艶を無くし、着ていたらしい服は鋏かカッターのようなもので切り刻まれたかのようにわずかに躯から垂れ下がっていた。
白い肌には幾つものうっ血と爪痕。
痛々しく紅く散っていた。









ガチャ














扉が開き、長髪の優男が姿を現した。にこにこと笑いながら地下室に入ってくると口を開く。




「兄さん、大丈夫?」





尋ねられた兄、ギルバートは実の弟を睨み付けていたが、何か言うことはなかった。
弟、ヴィンセントはくすりと再度笑うと、黒髪を恐ろしいほど白く細いその指でそっと撫でた。

ギルバートは酷く怪訝そうな顔をしていた。




「ふふ、ねえ、僕が怖いの?ギル」



「ここ…から、出せ…」





かろうじて聞き取れる声でギルバートはようやく口を開いた。
それはそれは嬉しそうにヴィンセントは顔を歪めると、ギルバートの唇に自分の唇を重ね合わせた。
顔を背けようとしたが、ヴィンセントは無理矢理後頭部を手で抱き、もっと深く口付けた。






本当に嫌だ。

胃がひっくり反りそうで、嘔吐感が波のように押し寄せる。

どんっとヴィンセントを足で蹴り離すと、自分の足元に嘔吐した。
だが、何も食べてなかったため胃液だけがびちゃりと下に落ちた。



「うぐ……ゲホゲホ」




喉がヒリヒリする。胃液特有の苦味と臭いが鼻を抜けた。
あーあとヴィンセントは嬉しそうに笑った。


ギルバートの吐瀉物を踏みつけ、構わず再びそばによる。




「やめろ!!来るな!!もうやめてくれ、頼む…あんなのはもう嫌だ…」


ギルバートが叫び、嘆いた。鎖をじゃらじゃらとならし、暴れに暴れたが、直ぐに力尽きる。


ふーふーと荒い息をするギルバートにヴィンセントは抱きついた。
落ち着いてよ、兄さんとほくそ笑む。



「僕が兄さんをよくしてあげる」



昨日のようにさ、と呟くとギルバートはぎゅっと目をつぶる。恐怖に苛まれて、震えている。それがどうしようもなくヴィンセントを駆り立てた。
もう一度口付ける。胃液の苦味が口に広がるが、それに少し征服感を抱き笑った。

舌を捩じ込む。



「んんっ…」


歯列をなぞると肩が揺れた。くぐもった声が無機質な部屋の壁に反響する。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

こんなの汚くて、穢れていて、無様で、間違っている。なのに、弟は躯を求めてくる。


嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。

怖くて怖くて、あの痛みを思いだし、ずたぼろに切り刻まれたこの服のようなちっぽけなプライドが、震えた。


明らかに拒絶しているのに、ヴィンセントはこの深い口付けを止めはしない。息が苦しくて、足でヴィンセントの足をドンドンと蹴る。痛いよ兄さんと言って、唇は放された。自分のヒューヒューという呼吸音が煩い。




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