Pandora Hearts
□早朝恋歌
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主従関係とかそういう堅苦しいものに縛られることが、厭で、仕方なかった。ただ自分のそばに置きたかった…。
ただ…
「…ん……」
眼には日差しが、耳には鳥のさえずりが飛び込んできた。そういう何度も何度も繰り返されてきた動作によって『ああ、朝か…』と理解する。
まだ寝ていたい…だが身体は眼を覚ましてしまった。『俺の身体だろ…寝かして下さい…』などと何とか身体に語りかけるがだめだった。
「…今…何時…」
枕元に手を伸ばし、時計を手にとる。
―午前5時32分46秒…
「……寝たい…」
ふと、寝返りをうつ。別に意味はない。なんとなくだ。
「…ぅわ」
オズは目の前の黒に思わず驚いた。そして昨夜のことを思い出す。
「そか…俺…チェインと戦って…ぶっ倒れたんだった…」
胸が痛む…軋む…
ただ涙は流れない
暴走してたとはいえ、あのチェインも元は人間だった…それを…
破壊した
ただそれだけが理由ではい…
あれは、自分の姿だった。
いつか来る自分の未来だった。
怖い…
この事実までをも受け入れなければいけないのだろうか…否、彼は
「受け入れるよ…なんでも……」
だけど今だけは…誰も見ていない今だけは、受け入れなくても咎められないだろうか…
「………震えてるぞ」
ビクッと肩を揺らして前方を見る。癖毛の黒髪が力なく揺れた。しかし双方の金色の瞳がしっかりオズを捕らえていた。
「ギルバート…」
オズは従者の名を囁いた。起き抜けの声はザラザラと掠れた。
従者は眼を細めた。悲哀をこめ、憐れみをこめ、闇をこめた眼を。
「オズ…どうした?」
「……」
オズはぼぅっとギルバートの顔を見詰めていたが不意にへらっと幼く笑って言った。
「…おはよう、ギル。」
ギルバートは眼を丸くして「オハヨウ」と辿々しく答えた。
しかしスッと眼差しを真剣にしてオズの白い頬に手を置いた。オズは少し驚いたが嫌がる理由もなかったために大人しくしていた。
「…珍しく…」
口を開いたギルバートはまだ少し眠そうだった。
「珍しく震えてたな…怖い夢でも見たか…?」
「俺はそんな子供じゃないよ、ギル」
オズは再び笑った。『あ、でもギルからみたら子供か…』と思い勝手に納得した。