デュラララ!!

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死んだらきっと

もう会えないね



君が死んでも

もう会えないよ



俺みたいな、

嘘つきじゃ







*






「…………で、」






玄関先、駆け寄ってきた新羅の、
うざいくらいの優しさが、腹立たしいくらいの慰めが、
俺の心を潰しそうになっていた。

1日駆けずり回ってあんなビル一つ見つけることもできずに、深夜にのこのこ帰ってきた俺を新羅とセルティは迎えてくれた。
ソファーに崩れるように倒れるとことりと置かれたコーヒーの、その湯気をゆらゆらと見つめた。


「見付からなかったんだね、お疲れ様。仕方ないさ。明日探しに行けば大丈夫だって」


「明日じゃだめなんだって!!………手前もわかってんだろ!?」


「落ち着いてよ、静雄」


「……悪ぃ……」





疲れと虚無感から苛立ちが募る。
自分の役たたずっぷりに、あまりの腑甲斐なさに殴り付けたソファーに風船が割れるような音がして、大穴があいた。
悪いと持ち主に目線を向ければ、顔色悪いよと新羅が額に手を置いてくる。


「いだっ」


「……学べよ」


「いや、弱ってるときなら電気発生しないかなあ…とか思って」



慌てて引っ込めた手をぷらぷらと振り、痛かったと笑う新羅。
そんな新羅を差し置いて、大丈夫か?と横からセルティが無機質な電子画面を向けるから、
まあなと短く、
意識も薄く、
1つだけ返事をする。



『明日は私も一緒に探そう』


「……ああ、サンキューな」


弱く笑えば安心したのかセルティが肩を揺らした。


俺がどうしてこんなに必死なのか、

そんなの俺にすらわからない。






俺は、何がしたかったのか、

わからなくなってしまって。


あんなデマかもしれない、
あるかもわからない建物を、
探して、
見つけだしたとして俺は、

どうするのだろう



例え臨也がそこにいても、
俺は




こんなに、



役に立たなくて



腑甲斐なくて、



ふざけんなと、
怒りが込み上げて


何より自分が許せなくて、
遣る瀬なくて、


なあ、臨也

どうしたらいい


お前を守りにいったら、
きっとお前も傷付ける。

いや、むかつくくらいに要領のいいあいつのことだから、
そんなときには、とっととその場から逃げ出しているだろうけれど。



俺は、

見つけて、
どうすればいいのだろうか。

臨也も、

あのビルも、

この気持ちの、
その答えも、


自分の心など、もう
霞がかかったように、
見えなくなってしまって。




じっとりとした怠さに眠気と疲労が波のように押し寄せる。



「新、羅………」


「ん?何か食べる?」


「……明日、あさ、…おこ、せ……」




気が遠くなる。
気絶するように、俺は、





「…わかったから、寝ていいよ。………って、もう寝てるし」










*












どろりとした
川底の汚泥のような
じっとりとした
絡み付くような
冷たい、暗い


そんな世界に、俺はいた。

たった一人で、
宙に浮くように、
気分の悪い空気に、押し上げられるように、押し付けられるように、



不意に目を開けて、白い天井が目に入って

ああ、夢だったかと
そう思って





ダダダダダっ



そんな効果音が似合うような足音。
振り向けば
新羅がらしくないほど息を荒くしていた。
膝に手をついて、
細っこい肩は酷く上下し、玉のように落ちる汗に全力疾走してきた様子が見て取れた。

上げた顔は泣きだしそうで、嫌な気配に何も言うなと強く願って、じっとりかいた手のひらの汗に息苦しさを覚えて。



言うな言うな、言うな

頼むからそれ以上言うな。

俯いて、何だとも聞けずに、
折れそうな膝に、
何度もそれだけを願って。





「静雄、臨也が………
















臨也が殺されたって…」














声が出ない。





ただ新羅の荒い息づかいだけが耳に残る。
涙さえ溢れることはなく、ただなぜだと、そんな愚直な問いばかり溢れてしまって



なんでだ、

なんで死にやがった、臨也

おかしいだろうが、
いつも殺しても死なねえみたいな顔して、余裕ぶっこいてへらへら生きていたのに、

何俺の知らないところで死んでんだ


ふざけるなよ、


なあ、







臨也、


















「シズちゃん、俺さ………」

















声がした。


そんな気がした。








*













「ぅ、あ……っ!!……はあ、…はあ……くそ、がっ…」


飛び起きると、相変わらずソファーの上。
昨日あけた穴もまだ残っている。
無造作に身体の上にかけられていた毛布に、ああ、夢だったとそこで気付く。

心の底からの安堵。
はあと吐いた息にやっと呼吸したと思えた。
冷えた空気が爪先から頭まで染み渡る気がする。

さああと外からする音は、雨の音かとぐったりと思う。
日も昇る前だ。
新羅たちを起こさなかったかは不安だったが、どうやら平気だったみたいだ。


たれる汗を拭おうとして、不意にそれが涙だと気付く。

泣いている?

この俺が、
臨也が死んだと、そう思って。


唐突に不安になった。
今、臨也は生きているのか。

怖い。
理由はわからないのに、臨也が死ぬのが怖くて仕方ない。



黙って座っていることもできずに、立ち上がると新羅の部屋に入ろうとする。





「……わあっ、なんだ。静雄か。おはよう、まあ起きてると思ってた……って、なんで泣いてるの!?大丈夫!?」



先に扉が開いたので驚くが、それよりもオーバーに新羅が驚いたために、ふう、と軽く息をついた。




「………大丈夫だ。ちょっと嫌な夢見ただけだ。それより」


「………はい、携帯。電話するんだろ?」



思わず新羅の顔を眺めてしまう。
こんなに気が利く奴だったのか、と。


……まあ…変態じゃなけりゃあなあ。



「なんか今結構失礼なこと考えなかった?」


「いや」





傍にあった昨日投げ捨てたゴム手袋を着用して、新羅が渡してくれた携帯の通話ボタンを押す。











「だめだな。電源切れてやがる」


「相変わらず、か」


「やっぱ一昨日電話切れたときに殺されたとか、捕まったとか、……ああ"!!、くそ、苛々する」


「落ち着いてって。わざわざ電話してきて日にちを指定してきたってことはさ、静雄に何らかのアクションを起こさせようとしてきてるんじゃないかと思うんだ。場所までしっかり決めてきてさ。……それに、僕は無言電話の犯人とメールを送ってきた奴は同一人物だと思うんだよ」


「……なんで」


「だって考えてもみなよ。無言電話をしてきた奴は君に[家に帰って一番初めに見るビル]なんていうすごく曖昧な表現で場所を指定してきた。一方でメールを送ってきた奴は無言電話がなかったら意味もわからなかったようなビルの写真を添付してきた。静雄に対する嫌がらせとしてなら臨也の写真だけで十分だったはずだろう?」


「……、まあ。つーことはなんだ?臨也を犯したやつが臨也を殺そうとしてるってことか?」


「そうなるよね」







はあ?

とてつもない程の怒りが沸き上がるのがわかった。
抑えようともしていないが、腹立たしくて仕方なかった。
自分勝手に臨也を抱いて、ヤるだけヤったら殺すだと?

ふざけやがって。

つーか、臨也が死ねばそれでいいんだろ、だと?

誰が!いつ!そんなこと言った?


臨也はいつかぶっ殺す。
だけど、それは俺たち2人の話だ。
どこの馬の骨かもわかんねえ野郎に臨也を殺されてたまるかよ。


臨也の、あの泣きじゃくる声が蘇る。



『会いたくなるから』




そんな、以前の俺なら気分を害しただろう言葉に、
行き場のない息苦しさを覚えて、胸元を握り締めた。


臨也、俺は、



手前が死ぬのが怖くて仕方ない。


なんでだ、そう聞かれたら、上手くは答えられねえけど



ただ言えるのは、

手前が死んだら




「……つまんねえんだよ」









大っ嫌いな手前がいない、そんな世界じゃ。

















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