デュラララ!!

□この世界に貴方がいるなら
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季節の変わり目というものは、どうも体調を崩しやすくなる。


それは、唐突に、俺の可愛い後輩が風邪を引いたことによって思い出された。





静雄が風邪をひくなんて珍しい。
いつものように取り立てに行っていたら風と共にぱたんと看板のように倒れて、

焦って起き上がらせてみれば、熱にうかされて目を回していた。


まあ、静雄はそんなこんなで今はとりあえずソファーで寝ているわけだ。
ただ、困るのは静雄が人より頭一つ分くらい背が高いが故に、このたいして大きくもないソファーに寝ていると、足がはみ出てしまう。

地べたに寝かせるわけにもいかずに、悪いなと呟けばがらがら乾いた声が、すんませんと言った。







否、謝るのはこっちなのだ。



鈍…まあ事実だからはっきり言うと、静雄は鈍い。

寒さにも、痛みにも、恋路にも、なにもかも。


最近は急に冷え込んだ。

自分のことに疎い静雄に上着の一つでも貸してやったらよかったのだろうが、最近は仕事が立て込んでいて、
2人であちこち走り回る→静雄が暴れるを繰り返していたために、そんなことが頭からまるまるすっぽ抜けていた。


可哀想に、

喉が痛むのか眉間に皺がよっている。
汗でじっとり濡れた前髪をそっと寄せてやれば、弱った瞳が薄く開いてこっちをみた。


こんなに弱った静雄を見ることができるのは、多分俺だけの特権。

風邪をひいたのは気を付けてやれなかった俺のせいなのに、身勝手にあふれる喜びに耐えられずに苦笑した。



「なんか、食べたいもんとかあるか?」


「…食べたいもん…は、ない…っすけど…」


「何だ?」


静雄は暫くじっと熱で潤んだ両目でこちらを見てくる。
痺れをきらして、もう一度何だ、と尋ねれば、がらがら声がまた述べた。




「……上着…貸してください」


「は?…お前上着なんて持ってたか?」


「ケホ…違います……」


「じゃあ何、上着?」


「…トムさんの、を貸してください…あれ、あったかいんで…」






………………。





俺は、よく、鼻血噴かなかったと思う。
こっちはソファーの脇に立ってた訳だから、自然といつも見上げていた静雄に見上げられて、涙目の上目遣いは犯罪以外の何物でもない。
その上にあんな言葉を吐かれたら、俺は、弱いわけで。







どきりと音を立てた胸には嘘は吐けずに、ばれる前にと、あ〜俺のかと少しわざとらしいくらいにしらをきって、少し離れた床に投げ捨てられた上着を拾い上げて静雄にかけてやる。




浅い息をしながら、静雄はへにゃりと笑って、何処か泣きそうな顔で、ありがとうございますと弱々しく呟いた。




「…わざわざ俺の上着じゃなくたって寒いなら毛布とか引っ張りだしてくれば…」


「いや…ケホ、ケホ、いや、俺、好き…なんで…」


「………は?な、何が」


静雄は言い辛そうに眉間の皺を深める。
悲しいかな俺のくだらない自惚れは、ドキドキと心臓を打つ。




無意味な期待。

欲だらけの想い。


俺の心はぐしゃぐしゃに汚れていて、今の静雄の声のように酷くざらついている。



「いや…その、トムさん…
















の、匂い、が…」





「……………に、おい…?」


「ぁ…、すんませ…ん。気持ち悪いこと言って…」




忘れてくださいとか、静雄が言ってた気もするが、そんなもの耳に入りもせず、カチリと妙に大きく耳に入ってきた時計の音に唇が震えた。

窓に差し込む血のような夕日が、もともと紅潮していた静雄の顔を更に紅く染めていた。


なぜか落ちるその陽に、ああ、悲しいなんて思って、

頭を撫でれば、静雄が気持ち良さそうに目を閉じて




好きだ、と言えたら、



どんなに楽か。


でも俺たちはあくまでも仕事仲間であって
年上の俺は、こいつにこんな気持ちを抱いてはいけないから


だから何も言えずに

否、言わずに。






立ち上がりソファーから離れかければ、くんと引かれたワイシャツの袖口に、とくんと胸が騒めいて







「トム、さん」


「あ?」


「変なこと聞いても…いいっすかね…」




掴まれた袖、

悲鳴をあげる心に、


暴力的に、

悲観的に、

楽観的に、

積極的に、

否、消極的に、


静雄は、俺に容赦がない。

くるくると、
くるくると、目が回るのは、静雄がそんな目で俺を見るからなのか、
抱き締めてしまいたいと嘆く心のせいなのか



なんだと、泣きそうになるのを押さえつけて、精一杯口角をあげて尋ねる。



「俺が、死んだら、誰が泣いてくれるんすかね………。俺は、破壊しかできない人間…つか、人間と呼べるかもわからない程化け物じみているのに、例えば、俺がこの世からいなくなったなら、誰か、俺みたいののために泣いてくれる人がいるのかって、こうやって熱だしたりすると不安になるんです……いつもはこんなときだって1人だし、急に、自分は世界の中で独りで生きているような気がして、恐ろしくなるんです。俺……俺、俺は」


「静雄もういい。…らしくないこと言うな。お前が死んだりしたら泣く奴なんてたくさんいるに決まってるだろ。少なくとも俺よりは多いさ」




静雄はふるふると首をふり、「トムさんのが多いに決まってます」と無表情に、幾ばくか笑顔を貼りつけてそう言った。


いつもの、静雄が少し困ったときに見せるそんな笑顔に、ああ俺はこいつが好きなのかと思ってしまう。


情けないほどに、俺は弱い。

静雄の傷付いてきたこんな脆い心すら、救いあげることもままならない。




「静、雄」


なんすかと尋ねる彼の声は、熱のせいか少し潤んでいる。

だがざらついている。


俺の心が痛むように、

それに似ている気がして

















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