デュラララ!!

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「………………うぜえ」








悩むか悩まないかは俺の自由だろうが
俺の携帯が鳴り続けているこの現象は俺のせいではなくどこぞの誰かが俺の今のこの状態を知った上で俺を苛立たせるためにわざわざ知らない番号からかけてきたのだとしたら俺はキレるだろうがそうするとまた電磁石化して気を失うだろうからそんなことはしねえ、しねえけど寝不足気味で苛々してる俺の携帯に何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も無言電話を掛け続けてくるこの番号の主はよっぽど人生に飽きていると見える。いくら今の俺が変な力を身につけたからキレんのはまずいだろうとかなり自重してるっつーのにわざわざ俺を怒らさせるようなこういうことしてくるってことは俺はここでぶちギレても正当防衛になるよな、たとえいつかこの誰かと顔をあわせるときがきたらその場でギタギタにしてグチャグチャにしてメキメキにしてボコボコにしてズタズタにしてバラバラにして原型止めないくらいに高圧電流で焼き殺しても正当防衛になるよな、よし、最後のチャンスだこの電話が無言電話だったらキレる今度こそキレるめらっとキレるぜってえキレる。




………とまあ、俺のこんな心の葛藤を全部読み切った奴は一体世界で何人いるかは俺にはわからねえが、要約すれば










―――現在俺の携帯に朝飯食った後辺りから総計34回目の非通知からの無言電話が鳴り響いている。










新羅が服の裏に縫い付けてくれた(所謂、夜業)静電気除去シートはかなり頑張って働いているようだが、今ばかりは吸いきれない電気がまたバチバチと音をたてていた。



『静雄、大丈夫か?』





気分転換に散歩にでも行きなよと新羅に提案されて、暇していたセルティは俺に付き合って池袋を闊歩していた。
とはいえやはり人の多いところは危険だ。

そういうわけで、俺は人通りの少ない路地で鳴り響く携帯を破壊しかかっている。





携帯を持ってきたのは誤りだった。
つい癖でポケットに突っ込んでしまって。







無言電話なんてされるような恨みを買うことなどそうない、
と、
言いたいところだが
いろんなやつボコボコにしてきた俺にはそんなことは口が裂けても言えず。
というか俺の番号をどこで得たという話だ。





なんなんだ。





最近誰かに教えた覚えもなく、教えた奴の番号はみんな携帯に入っているから表示されるだろうし。




『もういっそのこと切ってしまえば?』



「…………ここで切ったら負けな気もすんだよ。いいか?これまた無言だったらキレるぞ」


『私の手が付けられる程度にしてくれ。あんまり放電するのは身体によくないんだろう?』


「ああ、なんか新羅が難しいこと言ってたが…よくわかんねえ」


『よくわかんねえって……お前なあ』


「わかんねえもんはわかんねえ、ムカつくもんはムカつく、うぜえもんはうぜえ、気に入らねえもんは気に入らねえ、それだけだ」


『まったく…お前らしいと言ったらお前らしいけど…』



あきれたように肩を揺らすセルティを横目に立ち止まり、通話ボタンを押す。
新羅に無理矢理付けさせられたゴム手袋のおかげでなんとか携帯の命はつなぎ止められているが、このまま握り潰されるのもまた時間の問題。
買い替えるのは面倒だから、避けたいオチなのだけど。









――――ピッ










「…………もしもし」




『…………………』


「手前………マジで何の用だ。いい加減キレるぞ、てかもうキレる、俺が手前に割いていられる時間なんてあと三秒足らずしかねえんだよ!!!」






返事はやはりない。
向こうからは人の雑踏も、風の音も、鳥の声も、何も聞こえない。
ただサアアアというテレビの砂嵐に似た音に包まれた沈黙が遠く聞こえるだけ。
人の気配すら、この電話口の向こうにはない。







「うぜえ、うぜえうぜえ………たく、うぜえ!!」


『…………、……』


「…………あ"?」





一瞬聞こえたくぐもった呟きに思わず動きを止める。
唐突に、沈黙がずしりと重くなって電話口の殺気が高まった気がした。
なんとなく今まで生きてきた経験上、本能的にそれを感じていたのは幸か不幸か。











『………、……静雄。平和島、静雄。平和島静雄、だな。お前が、お前が』




声は男の物だった。
だが疲れ切ったような、哀しんでいるかのような妙な声だった。
なんかこんなの二度目だと自分を愛した赤い目の妖刀を思い出して、気持ち悪ぃと顔をしかめた。




「あ"?手前わかってて電話してたんじゃねえのか?用はなんなんだっつって…『―――折原臨也』






「………っ…!?」



『折原臨也、折原臨也はお前の何だ』







何だとは何だ。
ただ奴の名前を聞いた瞬間に俺は怯んでいた。



―――不覚にも、名前だけで。



こいつこそ臨也の何なんだ。
何故俺に電話してきたんだ。
問いは募るのに、声が出ない。
今までにない身体の反応に勝手に焦る。
自分の身体が言うことをきかなかったのなんて最近までずっとそうだった。
やっと俺は俺のなかの[暴力]を[力]に変えたというのに、まただ。

動かない。
今度は。





「…な…んで……臨也を知ってる?」


『…明後日、明後日……俺は、折原臨也を、』
















『折原臨也を殺害する』














「…………は、あ?」


『…………場所は、お前が今日家に帰って一番最初に見るビル』


「何…言ってんだ手前。臨也を、殺す…?」


『……平和島静雄…、折原臨也は俺が殺しておく。安心しろ。もう電話はしない。あんな腑抜けてしまった情報屋、すぐに殺れる。平和島静雄、折原が死ねば―――――それでいいんだろう?』











プツン


















*















「……ごめん静雄。やっぱ見せないほうがよかったかな」








俺の目の前に、


わけわかんねえ光景が広がっていた。


脳はこんな光景を何一つ理解しようとはせず、ただ胸の奥に込み上げる嘔吐感ににた不快感が俺を蝕んでいた。
何故、そう奴に聞ければきっと手っ取り早かった。
俺の知らないところで、あいつが、臨也が、




――――――どうしてだ





何故、何故何故何故何故何故?
わからねえ、わからねえのは
認めたくない、
わかろうとしていないから。
わかろうとしてはいけない。
俺はきっとどうにかなる。

キレることさえできず、パリともピリとも身体から音がならなくなったのは久しぶりのことで、ただ俺の動揺を表すようにゆらゆらと青白い電流が死にかけの蛇のようにぐでぐでと静かに波打っては消えて。






帰宅してすぐに新羅が真っ青な顔で俺のもとへ駆け寄ってきて


「静雄、臨也が………。…あ、でも静雄には、ちょっとショック、かも」





それでも俺は見せろと開かれたパソコンに目を向けたのだ。
歩み寄って見つめてしまったそこには












――――俺が、世界で一番、大嫌いで、くたばれと願っていた男が、



折原臨也が、あられもない姿にされていた





そのページには、
ただ淡々と臨也の裸体をおさめた写真がはり付けられていた。
しかも普通じゃない。
猿轡をかまされ、手首を縛り上げられ、身体中に鬱血痕が気味が悪いほどにつけられ、そして、気絶している臨也が写っていた。
縄で擦れた手首は痛々しく腫れている。
写真でもわかるほどに涙が跡になっていた。



誰かが、臨也を、こんな目に合わせた。

誰かが、あいつを殺そうと目論んでいる。


なんだこの、苛立ちでも動揺でもない気持ちは。
この、胸を絞めるような気持ちは。



痛い。


そうだ、痛みに似ている。
つきりと痛んだ胸に、俺を見た新羅がぎょっとする。


「…………し、静雄、涙出てるよ?」


「…………あ?」



気付かなかった。
一粒だけ、涙が頬を伝っていた。


不思議な気分だった。
奴のために涙を流すなんて死ぬまでないと思っていたから。



ただ許せなかった。


理由は不明確だが、
なぜか臨也を傷つけた誰かが、凄く憎かった。
今なら本気で殺せるとすら思って。





あとこんな写真もと新羅が開いたページには、でかいビルの写真。
それは池袋某所のある会社だった。

普通なら、あんな無言電話の主の言うことなどを真に受けるほうがどうかしているかもしれなかったが、俺は、その姿を目に焼き付けていた。





「新羅」


「ん?」


「電話貸せ」


「……携帯は?」







「握り潰しちまったんだよ。あまりに苛々してなあ」




画面に目を戻す。
不思議と混乱した頭は冷静だった。






「臨也を…俺以外の奴に殺させたりするわけねえだろ」












Continue…





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