Pandora Hearts
□溺夢輪廻
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ズキリ
腰の痛みに目を覚ました
白いシーツがくしゃりと歪んだベッドの上に全裸で横たわっていた
その時は不思議とその事実をすぐ理解した
ふと気付くとベッドの脇に無言のままそれが立っていた
暗くて、妖しげな眼光のみ認められる
己は全裸だと言うのに、羞恥心は少しもなく舐めるように見つめてくるその眼光に欲情さえした
ずくんと下腹部が重くなる
視姦されているなと頭で理解すると更に心臓はばくばくと脈打ち、息は荒れる
何故か当たり前のように反応をはじめた自身に手を伸ばし、ゆっくりと扱く
横目で見た眼光は無機質にただ自分を見つめてくる
見つめられているのを理解しながら自慰をする自分がなんとも自分を煽って、扱く手のスピードがあがる
「は、……ぁ、んっ」
気持ちいい
視姦されて悦ぶなんて、いつからこんなに俺は淫乱になったのか
ただ気持ちいいのは本当
興奮している
冷めた目がより自分を興奮させる
ゆらゆらと動く腰に、視界もあわせて揺らいでいる
涙がたまっているのかと妙に客観的に思う
「ん、んぁっ」
ドピュドピュと大きく果てると、ぐったりと眼光を真っすぐに見た
絶頂に痙攣する身体を感じながら
ゆっくり目を覚ました
*
後ろから抱き締められる
こういうとき普通ならば人の温もりは温かいなどというのだろうけど、実際冷たいという表現のほうがしっくりきた
ちゅ、と首筋に口付けられる
冷たい唇は首筋から露にされたうなじを通り耳たぶを軽く食んだ
唐突な低音は鼓膜を酷く厭らしく揺らした
「私の名を」
ごくりとぬるい生唾を飲んで、二人の主人が告げた名を呟く
「●●ン…●レン…、グレン…」
グレン、ともう一度吐き捨てた
胸の奥がつきりと傷んで、苦しくて仕方なくなるのはどうしようもなく不快で
抱き締められた身体がみしみしと軋んでいる
ああ、身体中の骨を折られる…
それを恐れて、眼前に横たわったベッドに突き刺さった血のしたたる刃を目視して
急速的に目を覚ました
*
「あんたが不快」
床が冷たい
酷く身体が痛い
暴力的に腹に蹴りがはいる
「が、は…」
「不快なのよ」
薄く目蓋を抉じ開ければ
深紅、真紅
紅い
血のような
蔑まれていると彼女の目を見て漸く思う
ぐり、と顔に高めのヒールを押しつけられて嘗めろと一言ぶつけられた
言葉もなんて暴力的だろうと一度ため息に似た吐息をはいて、目の前の靴を大人しく嘗めはじめた
「まるで犬ね。いや、犬以下よ、あんたなんか」
「あまり虐めすぎると死んでしまいますよ?ロッティさん」
上目遣いに様子を窺えば、だって、と彼女は背後にいた顔に入れ墨のある細身の男に言葉を続けた
その声はどこか懇願しているような、悲哀に満ちた声で、ああ俺は悪者だと思う
嘗めていた靴に口元を蹴られ、口内が血に塗れた
鉄臭さが鼻を通り、気持ち悪いと顔をしかめてしまう
「だって、不快でたまらないのよ、ファング」
きっとむいた目には激情が秘められていた
「グレン様を…グレン様を誑かすこいつが!!」
何故か、素直に謝りたくなって
また逃げ出すように目を覚ました
*
息を吸うと鼻腔に一気に冷水が流れ込んできて、驚き息を吐く
ごぼごぼと大きな音に何が起きたのかわからず暴れると腕が背中で拘束されていることを知った
頭をあげようにも何かに押しつけられてより深く沈められる
苦しくて、苦しくて
冷たくて
死ぬかもしれないと焦り、更に多くの二酸化炭素を吐き出してしまって、酸素を求めれば肌を刺すような冷たい液体が体内を満たしていく
意識が混濁していく
気絶しかかったそこで不意にざばりと頭を引き上げられた
呼吸をしなければと液体をげほげほと吐き出している途中で再び頭を沈められる
ろくに酸素を得なかった肺は、数秒で限界をむかえて
死にかけるとざばりと引き上げられる
それをもう一度繰り返してからやっと呼吸が許可された
浅い息と意識に、脳は少しずつ周りの様子を理解しはじめる
自分が沈められた浴槽に張られた冷水は、まだゆらゆらと揺らいでいて
掴まれた髪からぽたぽたと水滴が垂れては顔を撫でる
「お前は私の物だ」
何もいえずに声の主を探してみれば、彼自ら顔を寄せてきた
人形の様に感情の乏しい瞳が、吸い寄せるように視線を奪っていく
ああ、怖い
怖いよ
でも、夢の中で幾度も調教された俺にとっては
この、人間まがいの生き物が
愛おしくて仕方ない
「入れ」
こくんと糸が切れたように頷いて、冷たい水の中にうずくまった
じっと、それをあの眼光に見つめられて、胸が張り裂けそうなくらい脈打った
早く触れてと手を伸ばして、俺は目を覚ました