Pandora Hearts

□忘却傷痕
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「…ク…、ブレイク」


「…ん」


「重い…」


気が付くと、まだ繋がったままで、先に気が付いていたギルバートの上にのし掛かっていた。



「ん…すみませんネ」


ずる、と自身を抜き、ギルバートの横にこてんと寝転がる。
ふう…と息をつくと、昨日のせいか腫れた頬をしたギルバートが口を開く。


「…口の…中が」


「痛いんですカ?」


「口内炎…」


とりあえず起き上がりちゃんと服をきる。
ギルバートにも適当に服を着せて、手を引く。

訳のわからないままに着替えさせられギルバートはきょとんとしていたが、引かれるままにベッドからおりた。


「…っ!?ぐ…、ぃ、痛」


「腰?」


コクコクと頷くので、まあ私のせいかと思い、ギルバートを抱き上げる。


「な、な、何をっ!?」


「顔洗わないと…体も。血だらけですから…」


う…まあ、と項垂れるため、そのまま風呂場に向かった。






























「はい、落ちました」


「す、すまん」


お湯が茶色く染められ流されていった。

へたれた黒髪をよしよしと撫でて眼を見つめる。

「なんだ?」


「昨日は…ごめんなさい」


「…えっと…、大丈夫だ。お前の、気持ちはわかるから…俺が変なことしたから悪いんだよな」


お前は我慢してたのにとギルバートはしゅんと俯いた。

なんだ、わかっていたのと顎を持ち上げ、口付ける。


もう、血の臭いはしなかった。


離れて、腫れた頬を撫でる。
眉を潜めると、ギルバートはよくあることだってと笑った。

まだ幼げの残る顔で笑われると胸が傷んだ。


「大好きです」


ぎゅ、と抱きしめるとあわあわとギルバートが焦る。
今更何をとくつくつと笑う。


「ぶ、ぶ、ブレイクっ!?」


「恥ずかしいんですカ?」


「ち、違う!!」


じゃあなんですかと意地悪く言えば、う…と口ごもりながらギルバートは言う。


「急じゃ、驚くだろ、が…」


「あ〜はいはい、びっくりしちゃったんですカ」

「ちっ、ぁ、も〜っ!!!」


喚くギルバートに笑う。

少し、不思議だった。
あれだけ傷付けたかったのに、今はそんなこと少しも思わない。

きっと、安心したんだろう。
きっと、好きでいてくれるのかと安心したんだろう。


そっと再び頭を撫でれば、ギルバートは酷く恥ずかしそうに背中に腕を回してきた。


きっと、忘れないでいてくれる。

否、忘れられても構わない。


生きている間で、愛していたい。
死んでもなお、愛していたい。

もう傷付けない。
傷付けたくない。


「ブレイク」


「はい?」


「…そういえば、嫉妬してたのか?」



はい?と思わずもう一度と聞き返せば、いや、自分のことだけ見てればとかなんとか言ってたからと少し勝ち誇ったように尋ねてくる。


ドMがとむっとしてパンと軽く頬を叩く。



「〜〜〜〜〜っ!!!」


「どの口が言うんです、どの口が」

口内炎に響いたのか蹲り悶絶するギルバートを黒い笑みで一瞥して風呂場を出ようとする。




「まあ、嘘ではないですケド」


「…え?」


なんでもないですよと笑って、思う。


もう二度と、狂気は現れない。


この青年は自分のものだと、無駄な自信があったから。


「大好きですヨ」


「やかましっ………俺も…だけど」



ドMともう一度囁く。

煩いと言う彼の声に、なぜだか溢れた涙を一粒だけ落とした。





end…






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