Pandora Hearts

□忘却傷痕
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「そしたら…ブレイクも…いなくなって、オズがいなくなったうえに…ブレイクまで、し、死んじゃって、俺…怖くて、」

「…勝手に殺さないでくださいヨ」


ギルバートがすがるように胸に抱き付いてくる。髪が首もとを擽る。


「…、お願いだから…どこにもいかないで…傍にいて」


「…どうしちゃったんですカ…。ちゃんとここに居ますヨ」


抱き寄せれば、自分が知らないくらい大声をあげて泣くギルバートがいて。
そんなに、主人の失踪より自分なんかの死に怯えている青年が不思議でしかたなかった。


起き上がり、ギルバートも起き上がらせ、よしよしと頭を撫でればひくっとしゃくりあげ、胸に顔を埋めてまた泣く。


足の間に青年の身体をいれて、腕をまわすと、すっぽりと収まった。
溢れてしまえばいいんだ。
この青年の辛い気持ちなど、そして、自分を思う気持ちさえも。



本の少しだが、苛つく。
自分のことなど考えずに、大人しく抱かれていればいいのに。


そうすれば、こんな涙はなかったはずだから。


「…ギルバート君」


「ひ、く…ふぇ…」


「…私のこと嫌いになって構いませんから」


優しく撫でていた手を離し、ぐんと押し倒す。
金色の眼には驚きと、少しの恐怖が見てとれた。


壊れて、壊れてしまえ

壊れてしまえ壊れて…

そうすれば、いいんだ。

「ぶ、れい「黙って」


「…ぇ…」


「黙っていてくれますカ?」


笑っていったつもりだったが、眼が笑っていなかったのだろう。
ひく、とギルバートの喉がなる。
大きく見開かれた瞳からはポロポロと涙が落ちていく。



見つめていると、

狂暴な気持ちになる。


でも今まではギルバートから誘ってくることなんてなかったから、我慢できた。


でも


「…やっぱ…、やめろ、ブレイク…」


眠気が、自分の発する空気で消し飛んだのだろう。
今更胸板を手で突っぱねてくる。
それはいつも通りの彼で。


「ブレイク、俺がどうかしてたんだ…悪かった、もう起きるから」


「貴方が先に言ったんでしょう…もっとと」


私はやめようとしましたヨ


ギチギチと心の中の獣が牙を剥いている。
止まらない。
でも傷付けたくない。

いや、でも


「もう…いいんじゃないですカ?」


「え…?」


「私に壊されなさい」


冷たい眼光にギルバートはまた怯えて、新しい涙が頬をなぞる。
ただ、このままだとまずいと思っているのか、負けじと言い返してくる。


「な、なんで俺がお前なんかに壊されなきゃっ…」


パンッ


「………ぃ…あ…、ブレイク…」


ギルバートは殴られた頬を押さえて固まる。
苛々する。

もう止められない。

内の獣が狂ったようにのたうちまわっている。


「黙れと言ったんですヨ…大人しく壊されなさい」


抵抗するなと本能的に感じたのか、ギルバートはうつむき、こくんと一つ頷いた。
涙は絶えず流れていて、シーツをどんどん濡らしていった。


舌をねじこみ、青年の舌を絡めとる。
吸い付き、舐めあげるように口付けて、優しさとかそういう物が欠片も感じないくらい乱暴に続ける。
時折ごちりと歯があたり、血の臭いが口一杯に広がる。
眼を軽くあけると苦い顔をして大人しく舌を差し出す青年がいる。

抵抗するともっと酷くなると思ってるのだろう。
まあ、そうなのだが。


「…、ん…っんぅ…」


「声は出さないともっとしますヨ?」


脅しをかければ、キスを妨げない程度に首がふるふると揺れる。


これ以上は嫌らしい。
これ以上傷付けたくない。
これ以上傷付けたい。


矛盾。


酷い矛盾。


舌に歯をたてる。
ぷつりと音がしてまた口の中に血の味。

離れると想像以上にギルバートの口内は血にまみれていて、どうやら舌からの出血が多いようで。





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