Pandora Hearts

□破翼恋獄
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「おい…」

部屋の入り口から動けずにいたギルバートはやっとそれだけ言った。

だがヴィンセントは答えずに未だ必要に小鳥を粉々に切り刻んでいく。そして血塗れになり喜する。

その様子は誰から見ても、狂っているものだった。

暫く切り刻んでいたヴィンセントだったが、小鳥が原型をとどめなくなったころ口をひらいた。






「好きなものって…どうしてすぐに側からなくなっちゃうのかな」

突然の質問に少しおどろいたが、ただ「さあな」とだ言った。


「そうなんだよ…」


ヴィンセントはギルバートの方ではない宙をぼうっと見つめ、笑った。

上げられた口角は不思議とこちらを恐怖させるものだった。

「だから僕は大事なものや大好きなものは側から逃げないようにしてるんだよ」






「…お前に好かれたらまるで格子の中のような生活になりそうだな。」

ギルバートが軽く悪態をつくと、ヴィンセントは鋏を置き、肉塊を床にべちゃりと落とした。
そしてゆっくりギルバートの元へ歩みより、ギルバートのネクタイを掴むとそっと引っ張り顔を寄せさせた。

「でも僕は…兄さんが一番大好きだ…」

にこりと笑う。やはりその笑顔は少し怖かった。

「兄さんの羽も切り落とさないと…逃げちゃう?」

顔は笑っていたが、眼は笑ってはいなかった。
本気であることは誰よりギルバートが一番よくわかっていた。








「名前を呼んでよ…兄さん…僕の鳥なんでしょ…?」

違うと言えばどうなるか、眼に見えていたため、ギルバートは口を開いた。

「…ヴィンス…」

「ちゃんと呼んでよ」

再びため息混じりに名を呼ぶ。

「ヴィンセント…」

すると、満足したようにヴィンセントは笑った。





「兄さん…僕のこと好き?」








な…っとギルバートは動きを止めた。なんとも言えずに、ただ黙る。

するとヴィンセントがふとギルバートの袖をまくりあげた。そして腕に強く爪をたてて、肉を抉る。

「ぐっ…やめろ…ヴィンセント」


「兄さん…逃げちゃうの?」


眼には狂気。ギルバートは直感的に恐怖した。この男には自分と小鳥がおなじ物に見えているのだ。本気で逃がさぬように、帰さぬように、言っている。

「兄さん…僕のこと…好き?」


「あ…あぁ…」

何か、ギルバートの中で崩れた感覚があった。

「好き?」

「好き…だ…」

ギルバートは俯く。


「僕のこと大事?」


「大事だ…」


くすりとヴィンセントが笑う。

「じゃあキスしよう?」
笑ったままヴィンセントは言った。
いつものギルバートならすぐに拒絶しただろうが、今日はすでにヴィンセントのペースに取り込まれていた。
『大人しくしたほうが早く終わるだろう』と、それしか考えていなかった。





そっとギルバートの首に腕を回すヴィンセント。
そしてゆっくり唇を押し当てた。
兄弟だの男通しだの、言ったところで無駄なことはギルバートが一番よく分かっていた。






「いつっ…」






離した唇から血がぷくりと溢れた。

ヴィンセントはそれを舐めとった。

噛まれて切れたギルバートの唇をそっと指でなぞる。




「噛んでごめんね、兄さん」


「…いや…」






「でも…」




「兄さんはもう逃げないよね?」と笑われて口をつぐむ。
まるで、その籠の中の鳥のようだと思った。
否、この男には自分が鳥と同じに見えているのだろう。
自分の好きなもの、でひとくくりにされていた。


何も言わないギルバートを見てくすりと笑うと、ヴィンセントは踵を返してまた鳥籠に近づいた。
鋏を手にとり、黒い小鳥を捕まえた。






自分は…羽をもがれ、籠に閉じ込められた鴉に過ぎない。






ギルバートは思わず鼻で笑ってしまった。




くだらない…














ヴィンセントは小鳥の羽に鋏をいれた。























―――――チョキン












end…


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