デュラララ!!

□嫌い≒???
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彼は無神論者。


彼は神を信じない。


だから彼の信仰心は、神ではなく無力な人に向く。


だから彼は人を愛している。


人といっても特定の個人ではなく、人類そのものを彼は愛育している。


人は彼の愛玩具。


地球は彼と人の、愛の巣。





*



俺は人間に愛執していると思う。
否、している。
人が好きで仕方がない。
俺の愛者(ハシモノ)である人間たちは、俺の好きな非日常を運んできてくれる。
【折原臨也】を花だとするのなら、人は花粉を運ぶ脆弱な蜜蜂といったところか。
だから愛さずにはいられない。
俺の存在が彼等になんの利得も与えずとも、彼等は本能のまま、俺に利得をくれるのだから。


非日常というものは、まるで檻のなかにライオンとトラをいれて闘わせるのを娯楽とするような快楽をくれる。
それを蚊帳の外から眺めるのは、また愉しい。

それにしても例えとはいえライオンとトラではあまりに面白くないなぁ。
蟻の群れの中にライオンを落としたほうが見応えはある。

人と同じさ。
ある日突然やってきた彼等にとっての災厄を、彼等は群れることで消し去ることもできるのだから。

そう、まるで蟻がライオンを食い殺すように。
そう、まるでダラーズのように。
そう、まるで黄巾賊のように。
そう、まるで罪歌の子供、否、孫たちのように。

無限の可能性。
だから人はおもしろい。





しかしそんな人の中に異質な者が1人。
花粉を運びもせずに花を破壊しようとする蜜蜂のような彼は、化け物と形容するのに等しい。
利用したくも、手を出すと噛み付かれる猛威に、言い知れぬ苛立ちを感じていた。

しかし、それは何時からか、俺にとって唯一無二のナニカになっていた。
彼は俺を見れば怒りをあらわにして、爆発させた暴力を真っ直ぐ投げ付けてくる。
直接的、かつ強烈なそれは、俺の世界に無理矢理押し入ってくることのできる唯一の存在。


思考する。
彼が俺のものになればいいと。

嗜好する。
彼の力を。

試行したい。
彼を手に入れるために。

欲しい理由は決して思い通りにならないからじゃない。
ならないからなるようにしようとか、そういうことじゃない。
ならないからこそ、欲しい。
俺も彼の、シズちゃんの唯一になりたい。
シズちゃんが、嫌い。
でも嫌いという感情は人間全部を愛している俺にとっての、唯一。




どんよりと重い、鈍色の空を見上げる。

―――シズちゃんはどこにいるだろう。

おかしな話だ。
同じ空の下にいるのに、たった一人の人間の、しかもあんな目立つ男すら見つけることはかなわないのだから。

人気のない池袋の路地裏に踞る。
誰にも見つからずに、ひっそりと朽ちていった花が、隣でぱり、と軽い音を立てて揺れた。
凪いだ風に寒いと、少しだけ踞る身体を緊張させる。
首をすくめると、胸が締め付けられるように痛んだ。


誰かが書き残して棄てていったスプレー缶と落書きに囲まれて、俺もまた棄てられた猫のような気持ちになる。
人を知ろうとしていたはずの俺は、いつのまにか知りたくもなかった、たった一人の人間を知ろうともがいている。

俺も存外人間か。

人は、脆く弱い。
俺は、自分が思っていたよりもずっと脆く弱い。


彼の温もりが欲しい。
例え、それで粉々に壊れてしまっても構わない。
この気持ちは興味本位。
でもこの想いは破壊されても本望。


ああ、シズちゃん。

俺は君のことが



「…………何してんだ」



振り返ると、にぎやかな通りから路地裏へ誘うコンクリートの冷たい壁の隙間から、見慣れすぎたバーテン服に身を包んだ彼は煙草を吹かしながら現れた。
それはまた、俺の想像を脆く、容易く打ち砕いてしまうほど唐突で。

唐突すぎて、愛想のいい笑顔の準備もできぬまま、自傷気味な笑顔が表情筋を酷く引きつらせた。


何変な顔してんだと怪訝そうに呟いたシズちゃんは、怒ってないみたいだった。







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