Pandora Hearts

□忘却傷痕
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「ん…」


まぶしい白い光に眼を醒ますが、まぶしすぎるそれに顔を歪めた。
ゆっくりと状況把握に勤しめば、白い光の正体は、傾斜する窓からの朝日。それがシーツに反射されて視界が真っ白に染め上げられている。


淡い白。

名の通り、淡白な色。

欲のない、飾らない色。


寝惚けた頭が少し覚醒する。どうしてここで寝ているんだっけ。

もぞ、と身体を動かすと、シーツが引っ掛かる感じがする。
疑問に思い、紅い隻眼で右側を見る。



「…ぁ…ギルバート君…」


全て理解した。
昨夜の所行も。

ギルバートは少し苦しそうに顔を歪め、魘されている。
どうしたのかと思い、同時に可哀想にと思い、起こそうと手を伸ばす。

はたと手を止め、やっぱりと身体を起こし、ギルバートに覆い被さる。
汗でへにゃりと貼り付いた黒い前髪が、彼を写し出しているようで。


「…ギルバート君、起きないと襲っちゃいますヨ〜」


返事はない。
苦しそうな呻き声だけが白い部屋に響いている。


ふ、と息をついて深く口付ける。


くちゅ、と卑猥な水音が響く。
空気を求めてわずかにあいた口に舌を差し込む。
ギルバートから息が漏れる。

暫くして、不意にギルバートの方から控えめに舌が伸びてくる。
驚いて離れようとすると、頭に両腕をまわされて、もっととくぐもった声が口内に響く。

確かに今までなんどもキスはしているけれど、一度たりとも自分から積極的にしてきたことなんてない。
寝起きで惚けてしまったのかと眼を細めて望み通り口付けてやる。というか押さえられて離れられない。


「…ん…ふ」


「ん…離れますヨ?」


言うとおとなしく回した腕の力を弱めた。
離れて顔を見れば寝惚けているからなのか、酷くとろんとした金色の瞳で物惜しそうに見つめられる。
唇が痺れている。
一体何分し続けていたのだろう。


「おはようございます、魘されてましたヨ?怖い夢でも見たんですカ?」

いつも通り、馬鹿にしてやろうと思い呟いた言葉にギルバートはぼろりと涙を溢す。
展開が急すぎて、ぎょっとすると、ギルバートはごろりと身体を横向きにした。


「どうしたんデス…」


「…なんでもない、関係ないだろ」


ふうむとギルバートの背中側に寝転がる。
小さかったこの背中もこの5、6年で大きくなった。

そっと後ろから抱き締めると、身体が震えていることを知った。
泣いているのか。
一体何故。


「言わなきゃわかりませんヨ、聞いてほしいからあんなことしたんじゃないんですカ?」


「違っ……ぅ…」


「じゃあ何故泣くんデス」


自分に隠し事をしているギルバートに少し腹がたって、昨日の鬱血の残る背中に舌を這わせる。


「ひゃ、ぅ、ぁ…やめ、」


「私のことが嫌いになってしまったんですカ?」


「違、だからっぁ、んっやめ、や、はぁ、んん」


後ろから胸の突起を摘まむ。顔は見えないが、泣いているのは必須。
やめてと弱々しく首を横に振る。
むかつく。
さっきのキスと態度が違いすぎる。


「ぶ、れい…く、ぁ、はぁっ話す、話すからっ、ん」


「…仕方ないですネ」


手を離すと、ギルバートはごろりとこちら側を向いた。
やっぱり涙で濡れていて、へにゃりと眉はハの字に垂れて、泣きじゃくっていた。

相変わらず泣き虫だなとその涙を拭う。


「どうしたんですカ」


「…夢…見た。オズ…オズがいなくなった日の…」


アヴィスへと追放され、未だここに戻らぬ彼の主人。
常世ならざる地へ堕とされ、6年あまりが過ぎようとしていた。
今更怯える青年に疑問を抱く。以前にも夢を見たと暗い顔をしていたがここまで取り乱したことはない。
まだ、何か言いたげに眼を泳がしている。
言葉を選んでいるのか
じれったくてもう一度、何?と尋ねる。






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