Pandora Hearts

□破翼恋獄
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…………どうして…?






…………どうして逃げちゃうの?









……………皆逃げてしまうなら…









…………皆逃げられなくしてアゲル…
























―――――何をしているんだと、叱られた記憶がある。

まあ、ついこの間のことだから当たり前だが。

取り上げられた鋏に付いた血と羽は、自分にとって、美しく見えたが…彼にとってはそうでもなかったらしい。









ヴィンセントは最近日課になりつつある昼寝をソファーの上で行っていた。

「おい…風邪ひくぞ。」

揺り動かされて眼を薄く開けると、珍しく漆黒の髪が目に入った。


「ぎ…るー…」










ぎゅっ

















急に抱きつかれ、そのまま尻餅をつく。慌てて引き離そうとギルバートはもがいた。だがヴィンセントは離れない。挙げ句そのまま眠ってしまう。



「……おい…」

ため息混じりに言うと、胸にしがみついた弟は「…兄さーん…」と寝言を言った。






その後どうやっても結局ヴィンセントは放れなかったためギルバートは仕方なし、抱き抱えベッドに横たえた。


ブレイクにナイトレイ家のスパイを命じられ来てみたものの、帰宅した途端にこれだ。どうにもならない。『というよりあいつは人にスパイなんぞ頼まなくてもいいのでは…?』と、いつも机の下やら天井やら、神出鬼没なブレイクを思いだし思った。

今更スパイなど何を考えているのか…まあ気を付けるべき者はわかっていた。



この隣で眠っている自分の弟である。

何を考えているのかさっぱりであった。だから怪しいのか、だから怪しくないのか…。もしこのよくわからない部分から怪しんでいるのだとしたら一度ブレイクは鏡を見るべきだと思った。






「ん…」






暫くしてヴィンセントが眼を開けた。こしこしと眼を擦り、ギルバートの顔を横になったまま見上げた。

「兄さん…おかえりなさい」

笑って言われて「ただいま」と普通に返してしまった。
ヴィンセントはその後何も言わなかったが数分してからばっと身体を起こした。



「…?どうした?」


「餌あげに行くの。兄さんも行く?」


行くか行かないかの返答など待たずに、「行こう」とヴィンセントはギルバートの手を取って身体を起こさせた。



せっかく横になったのにとも思ったが、今更いいかとギルバートは身体を起こし、ベッドからおりた。









ヴィンセントはギルバートの手を引き、屋敷の中を歩いていく。

そして、屋敷の一室に入っていく。
そこは薄暗く、カーテンがしめられていた。だがカーテンは破れており、その隙間から若干の日の光が部屋の奥まで射し込んでいた。そして暗い窓辺に鳥籠が1つ。中には美しい小鳥が三羽ほど入っていた。

「…減ったな…また殺したのか?」

ギルバートが怪訝そうな顔をして尋ねるととても楽しそうに笑って言った。その笑顔には畏怖すら感じた。

「違うよ、兄さん」

ヴィンセントは窓辺の鳥籠に近づいた。
そこにあった鋏をとり籠の鍵を開けた。


「みんなが逃げられないようにしてるだけだよ」






ヴィンセントは無造作に手を突っ込み中で暴れまわる三羽の中から一羽を鷲掴みにし、籠から出した。

















――――チョキン


















羽がはらりと散った。
翼がどんどん小さくなる。



















―――――チョキン

















美しい尾羽も切り落とされる。


そして羽が付け根から鋏で切り落とされた。






ブシュっと言うような、ブチブチと言うような、なんともいえないグロテスクな音とびちゃっと、血が床に落ちる音が部屋に響いた。
鋏が小鳥の身体に突き付けられたときギルバートは思わず眼を背けた。






また、不快音。






そこでギルバートは目線を戻した。
床にはビクビクと痙攣する真っ二つになった小鳥の体が落ちていた。
ヴィンセントは血塗れになりながら恍惚な表情を浮かべていた。


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