Pandora Hearts
□違法痛愛
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抱き締めたら…それはそれで切なくて…
でも手放したら…
おかしくなりそうだった。
「……もっかい…言って?…ギル…」
声は少し震えていた。
「俺…よくわかんなかっ「好きだって言ったんだ」
従者に組み敷かれた主人は苦笑した。
「バカ言うな…」
「俺は本気だ」
吐き捨てるようにギルバートは言った。
眼は獣のように、目の前の獲物しか見てはいなかった。
信じられない事実に未だオズが苦笑しているとギルバートの顔がふと哀しそうに歪んだ。
『あ、皺が増えた…』とオズはギルバートの眉間を右の人差し指できゅ…と圧してみた。
「…………ぁ……?」
ギルバートの口から酷く驚いた声が僅かに洩れた。
「…なんでそんな顔してるの、ギルバート」
にっこりと笑うオズに思わず言う。
「お…お前、自分の状況わかっているのか…?」
「わかってるよ」と口を尖らせオズはツンと言った。
「俺は怖いおじさんに犯されそうになってる」
「おじさんって…」
ギルバートは溜め息をついた。
「わかってるならどうして抵抗しない…?」
本当はわかっていた。オズが自分の気持ちに気付いていることも、今、これ以上のことをする勇気がないことも、これ以上…主人を傷付けたくないと思っている自分のことさえ、オズには知られている…。そんなことはもうわかっている。
「…抵抗しなくたって何もされないからね」
『……やっぱり』
ギルバートは思った。
もう無理だと悟り、身体をオズの上からどかし自室のベッドの際に座った。
そして少し不機嫌そうに煙草をくわえた。
「どうしたの?ギル」
オズは小馬鹿にしたように横たえたまま笑った。従者は何も言わずに白煙を口から吐き出した。
それを黙って見つめた主人は再びくすりと笑うと「わっか作って、わっか」とリクエストした。
ギルバートはまた怪訝そうに眉をひそめたが口から出た煙はリクエスト通り白い輪となって空中に舞い、消えた。
「なんだかんだわがまま聞いてくれるんだね」
笑われてむっとする。
「お前の頼みを断れるわけないだろ…」
はぁ…とついた溜め息は、静かなその部屋に響いた。目の前の小さな主人に翻弄され、そして、慕っていたらいつの間にか…心の中にどす黒く渦巻くものが生まれていた。それはただ、もやもやと心中に漂い、自身を乱し、切なくさせた。
これが愛だというのなら愛されたくないと思った。
これが恋だというのならだれも自分に焦がれないでほしいと願った。
身勝手で身の程をわきまえない願いだと言うことは知っていたが、こんなに辛い思いを誰にも味わって欲しくはなかった。ましてや自分のせいで…。