騎士の奏でる鎮魂歌

□聖職者の鎮魂歌
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不愉快な話し合いを抜け出したノストラディア侯爵、ザイフォンはそのままセントラヴァー大聖堂に足を向けた。
清らかな光が差し込む中、足早に突き進む。
何事かと振り返る皆に構わず、マルディンがいるであろう部屋に入った。が、いたのは雑巾を持った修道士見習いの者が二人。
ザイフォンの姿を見て、ひっと後ずさった。
---絶対怒ってる。不機嫌過ぎるオーラが漂い、ザイフォンの周りだけ光が陰っているような気がした。
「ザ、ザイフォン大司教様………今日はどう
「マルディンはいないのか?」
言葉を遮ったザイフォンが、修道士に問い掛ける。
「マルディン様はただ今責務故外されておりますが………。」
「…ならば仕方ない。しばらく待たせてもらおう。」
頷いたザイフォンは、部屋に置かれたソファーに長い足を組んで座る。
顔を見合わせた見習いの二人は、あせあせと扉に向かった。
「マ、マルディン様に、お伝え致しますか?」
「いや、良い。邪魔をしてはならんからな。」
「それでは、何かお飲みになりますか?」
しばらく考えたザイフォンは、見習いの二人を見遣り口を開いた。
「そなたらも勤めが有ろう。………わたしの事は良いから、しっかり聖務に励みなさい。…気遣い、感謝する。」
目礼された二人は顔を赤らめ慌てて出て行った。
一人になったザイフォンはそっと瞳を伏せ、外の風の音を聞いていた。
それからどれくらい経っただろうか、扉の外の気配に瞳を開ければ、間を置かずにマルディンが入って来る。ソファーに座るザイフォンを見遣りニッコリと微笑んだ。
「どうされましたザイフォン様。」
「………敬語はいらぬと、何度言えばわかるマルディン。」
眉を潜めたザイフォンにそうでした、と苦笑し、執務用の椅子に腰掛ける。
「今日大司教会があった。…そなたが無下にするから、不愉快な話し合いだったぞ。」
悪態をつくザイフォンを見遣り、にやりと笑う。
それまでの爽やかさや誠実さとは掛け離れた、裏の顔だった。
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